古い木造の実家。登記を放置すると数次相続で相続人が増え、売れなくなる

「そろそろ実家を売ろう」と不動産会社に相談したら、名義が亡くなった祖父のままで、法定相続人を調べたら会ったこともない親戚が何十人——。 2026年に入ってからも、こうした「相続人が多すぎて実家が一歩も動かせない」実話が相次いで報じられ、話題になりました。

これは特別に運が悪い人の話ではありません。相続登記を一代・二代と放置すると、だれにでも起こります。 放置した間に相続人が次々と亡くなり、その子・孫へと権利が枝分かれしていく。これを数次相続(すうじそうぞく)と呼び、気づけば相続人が十数人〜数十人に膨れ上がります。

やっかいなのは、不動産を売るにも分けるにも原則「相続人全員の同意」が必要なこと。1人でも反対したり連絡がつかなかったりすると、実家は売れず、貸せず、固定資産税だけがかかり続けます。 この記事では、なぜ相続人が増えるのか → 自分は対象か → 今やること → 間に合わないときの緊急避難まで、 法務省の一次情報だけを根拠に、意思決定の順に整理します(2026年10月時点)。

① まず結論|放置した実家は「売る前に名義」で詰む

このセクションの要点は「実家を売る・貸すの前提は『名義が自分(相続人)になっていること』。亡くなった人の名義のままでは一歩も動かせない」ということです。

亡くなった親や祖父母の名義のままの不動産は、売ることも、担保に入れて借りることも、基本的にできません。 売るには先に名義を相続人へ移す相続登記が必要で、そのためには遺産をどう分けるか(遺産分割)を相続人全員で決める必要があります。

ここで、放置してきた年数が効いてきます。登記を長く放置していると、本来の相続人がすでに何人も亡くなっていて、その相続人(子・孫)まで巻き込むことになる。 結果として「実家を売りたいだけなのに、会ったこともない親戚全員にハンコをもらわないといけない」という状態になります。これが相続人が多すぎて売れないの正体です。

逆に言えば、打つ手ははっきりしています。①相続人を確定する → ②遺産分割を決める → ③相続登記で名義を移す。 この順番さえ踏めば、たとえ相続人が多くても出口に進めます。まずは落ち着いて、自分の実家がどの段階にあるかを把握するところから始めましょう。

② なぜ相続人が増えるのか|数次相続の仕組み

このセクションの要点は「相続人は『放置した時間』に比例して増える。一代放置するごとに、亡くなった相続人の子・孫へ権利が枝分かれする」ということです。

数次相続とは、ある人の遺産分割が終わらないうちに、その相続人がさらに亡くなって次の相続が重なる状態をいいます。 たとえば祖父が亡くなり、実家の登記をしないまま子(父やおじ・おば)が何人かいて、その子たちも年月の中で亡くなっていくと、権利は孫・ひ孫の代までねずみ算式に広がっていきます。

放置すると相続人が増えていくイメージ(一代ごとに枝分かれ)

祖
祖父名義
のまま死亡
子
子4人へ
(うち2人死亡)
孫
孫・配偶者
へ再分散
今
相続人が
十数人〜数十人

しかも各段階で配偶者も相続人に加わるため、血縁だけでなく「おじの奥さん」「いとこの配偶者」まで関係者になることがあります。 こうして、最初はきょうだい数人で済んだはずの話が、放置の間に顔も知らない人まで巻き込む規模になってしまうのです。

大事なのは、相続人が増えるのは「もめたから」ではなく「放置したから」だという点です。 仲が良い・悪いに関係なく、時間が経つほど関係者が増え、全員から同意を取るハードルだけが上がっていきます。だからこそ、早く手をつけるほど簡単に終わります。

③ 自分は対象か|危険サインのチェック

このセクションの要点は「『祖父母の代の名義』『長年手をつけていない』実家は、相続人が膨らんでいる可能性が高い。登記簿で名義をまず確認する」ということです。

自分の実家が危ない状態かどうかは、次のサインで見当がつきます。1つでも当てはまるなら、早めに相続人の範囲を確認したほうが安全です。

名義の確認は、法務局で登記事項証明書(登記簿)を取れば誰でもできます。実家の固定資産税の納税通知書があれば、所在地から取得できます。 「今、誰の名義になっているか」が、すべての出発点です。亡くなった人の名義なら、相続登記が済んでいないサインです。

名義変更そのものの期限と手続きは相続登記の義務化はいつまで?2027年3月期限と過料10万円の回避に、 「誰に相談すればいいか」で迷ったら相続した実家は誰に相談?司法書士・税理士・不動産会社の使い分けにまとめています。

長く手をつけられていない築古の実家。名義の放置が売却を止める

④ なぜ「全員の同意」がいるのか

このセクションの要点は「遺産分割も、相続した不動産の売却も、原則『相続人全員の合意』が必要。1人でも欠けると成立しない」ということです。

亡くなった人の遺産は、遺言がなければいったん相続人全員の共有になります。これを「誰が何を取るか」決めるのが遺産分割協議で、 協議は相続人全員が参加して合意して初めて成立します。1人でも欠けた協議は無効です。

仮に遺産分割をしないまま共有状態で売ろうとしても、共有不動産を丸ごと売るには共有者全員の同意が必要です。 つまり「分けるにも、売るにも、全員の同意」というのが原則。だから相続人が多いほど、全員のハンコを集めるだけで膨大な手間になります。

さらに現実には、相続人の中に認知症で判断能力が落ちた人や行方不明の人がいると、その人は協議に有効に参加できず、成年後見人や不在者財産管理人を家庭裁判所で選ぶ手続きが必要になることもあります。 人数が増えるほど、こうした「全員そろわない」事情にぶつかる確率も上がります。親の高齢化で凍結するパターンは老老相続で実家はどうする?元気なうちに決める判断フローもあわせてどうぞ。

⑤ 放置するほど増え、費用も膨らむ

このセクションの要点は「放置のコストは『相続人の増加』だけではない。固定資産税・管理の手間・書類収集費まで、時間とともに膨らむ」ということです。

「いつかやる」で先送りするほど、負担は確実に重くなります。放置で膨らむものを整理すると、次の3つです。

放置で膨らむもの 何が起きるか
相続人の数関係者が亡くなるたび、子・孫・配偶者へ枝分かれ。同意を取る相手が増える
書類・手間相続人全員の戸籍を集める作業が膨大に。遠方・音信不通だと交渉自体が難航
維持コスト売れないまま固定資産税・草刈り・管理費がかかり続ける。老朽化で解体費も上昇

※金額は物件や地域によって大きく異なります。空き家の固定資産税がどう上がるかは空き家の固定資産税はいくら上がる?特例が外れた時の実額計算で確認できます(2026年10月時点)。

加えて、相続登記には期限と罰則があります。法務省によると、相続登記は2024年4月1日に申請が義務化され、 不動産を相続で取得したと知った日から3年以内に申請しなければなりません。施行前に発生した過去の相続も対象で、 その場合の経過措置期限は令和9年(2027年)3月31日まで。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になり得ます (法務省「相続登記の申請が義務化されました」・2026年10月時点)。

つまり「祖父名義のまま放置してきた実家」は、相続人が増え続けるリスクと過料のリスクを同時に抱えています。 どちらの意味でも、動くなら早いほど楽で安く済む、というのが結論です。

⑥ 今やること|現状把握→登記→分割の順番

このセクションの要点は「相続人が多くても、やることの順番は決まっている。『相続人の確定 → 分け方の合意 → 相続登記』を順に踏む」ということです。

人数が多いと途方に暮れますが、作業の順番は変わりません。下の流れで一つずつ進めます。

相続人が多い実家を動かす手順(順番を守れば必ず前に進む)

1
名義を
登記簿で確認
2
相続人を
戸籍で確定
3
分け方を
全員で合意
4
相続登記で
名義を移す

人数が多い・遠方・音信不通が絡むなら、最初から司法書士(戸籍収集と登記)に入ってもらうのが結局は近道です。 交渉がこじれて分割がまとまらない場合は弁護士へ——という役割分担は相続した実家は誰に相談?司法書士・税理士・不動産会社の使い分けに、 兄弟・共有での分け方は単独相続した実家の固定資産税、兄弟に分担義務はある?誰が払うにまとめています。

⑦ 間に合わないとき|相続人申告登記という緊急避難

このセクションの要点は「遺産分割が2027年3月末までにまとまりそうになくても、『相続人申告登記』を使えば、ひとまず登記義務を果たして過料を避けられる」ということです。

相続人が多くて協議がすぐ終わらない——そんなときの救済として、義務化にあわせて相続人申告登記という簡易な手続きが新設されました。 これは「自分が相続人のひとりです」と法務局に申し出るもので、相続人が単独で、全員の合意がなくても行えます。これをすれば、とりあえず相続登記の申請義務を果たしたことになり、過料を回避できます (法務省「相続登記の申請が義務化されました」・2026年10月時点)。

ただし注意したいのは、相続人申告登記はあくまで「義務を果たした」という応急処置であって、名義が自分に移るわけではない点です。 これだけでは実家を売ることはできません。売る・貸すには、結局その後に遺産分割をまとめて通常の相続登記をする必要があります。

つまり相続人申告登記は、「過料は避けつつ、分割の話し合いに時間を稼ぐ」緊急避難と位置づけるのが正解です。 期限が迫っているのに協議が終わりそうにないなら、まずこれで義務だけ果たし、並行して相続人の確定と分割を進めましょう。期限と過料の詳細は相続登記の義務化はいつまで?2027年3月期限と過料10万円の回避で確認できます。

⑧ 次に読むべき記事

相続人が多すぎて実家が売れないのは、「もめた」からではなく「放置した」からです(2026年10月時点)。 放置するほど相続人は枝分かれで増え、全員の同意を取るハードルだけが上がります。名義の確認 → 相続人の確定 → 分割の合意 → 相続登記の順に、早く動くほど簡単に終わります。

まとめ

「相続人が多すぎて実家が売れない」は、時間が作り出す問題です。登記を放置した年数のぶんだけ相続人が枝分かれで増え、全員の同意という壁が高くなります。 けれど、やることの順番は人数に関係なく同じ。名義を確認し、相続人を戸籍で確定し、分け方を合意し、相続登記で名義を移す——ここを踏めば必ず前に進みます。

期限(過去の相続は2027年3月31日)に分割が間に合わなくても、相続人申告登記で義務だけ先に果たし、過料を避けながら話し合いを続けられます(法務省・2026年10月時点)。 いちばんの敵は「また今度」。まずは固定資産税の納税通知書を手に、実家の名義を確認するところから始めてください。

「名義を整えたら、売るより貸して資産にできないか」——その出口設計は、ボロリッチの得意分野です。 相続した築古戸建ての状態診断から直し方・貸し方まで、実践者の視点で一緒に考えます。