高齢の親と、すでに高齢の子。老老相続で実家をどうするか話し合うイメージ

「実家の相続」というと、親が高齢で、子は働き盛り——そんなイメージがありました。 ところが今は、相続する子の側も60〜70代という『老老相続』が珍しくありません。

相続する側も高齢だと、話し合いが進まないうちに親か自分が認知症になり、実家が売るに売れない・名義も動かせない状態で凍結してしまいます。 いちばん怖いのは、揉めることより「誰も何も決められなくなる」ことです。

この記事は制度の解説を並べるのではなく、 「自分は老老相続の対象か → 元気なうちに何をするか → 誰に・どう残すか → 動けなくなったら何ができなくなるか → 次に読む記事」を、 意思決定の順に決める保存版のハブとしてまとめます。

結論:3行でわかる老老相続の備え

このセクションの要点:老老相続は「揉める」より「決められなくなる」のが怖い。親も自分も元気な今が唯一の準備期間です。

先に結論を3点でまとめます。

つまり老老相続の対策は「元気なうちにしかできないこと」を先に片づけるのが核心です。 判断能力があるうちだけ、遺言も贈与も売却もできます。この記事はその順番を整理します。

※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法務・税務判断ではありません。適用の可否や具体的な手続きは、弁護士・司法書士・税理士などの専門家にご確認ください。

何が起きている?相続する側の高齢化

このセクションの要点:長寿化で親が90代まで生きると、相続人である子はすでに60〜70代。「高齢者が高齢者から相続する」構図が広がっています。

老老相続とは、相続する側(相続人)も高齢者になっている相続のことです。 親が長生きするほど、子が実際に実家を相続するのは自分も定年後・年金世代になってからという順番になります。

相続する側が高齢だと、次のような困りごとが重なります。

とくに怖いのが二次相続の連鎖です。名義を動かさないまま相続人が次々に亡くなると、 相続人が兄弟・いとこ・甥姪へと枝分かれし、十数人の共有になって誰も売れない実家ができあがります。 「とりあえず今は触らない」が、いちばん高くつく選択になりがちです。

まず確認:自分は老老相続の対象か

このセクションの要点:下のどれかに当てはまれば、老老相続予備軍。早く動くほど選べる手が多く残ります。

次のチェックに1つでも当てはまるなら、「元気なうちにやること」を今から始める価値があります。

特に「名義が昔のまま」は要注意です。祖父母名義のまま放置された実家は、 いざ売ろうとすると過去の相続人全員をさかのぼって探し、全員の同意が要ります。 相続人が高齢化・多人数化する前に、名義を今の世代に整えておくことが最優先です。

築古の実家。相続する側も高齢になる前に方針を決めておきたいイメージ

元気なうちにやること(判断フロー)

このセクションの要点:「継ぐ・売る・貸す」の方針を先に決め、その方針に合わせて名義・遺言・お金の準備を進めます。

やることは多く見えますが、順番どおりに進めれば迷いません。①方針を決める→②名義を整える→③残し方を決めるの3ステップです。

図解:元気なうちに決める判断フロー

①方針を決める ②名義を整える ③残し方を決める 継ぐ/売る /貸す 家族で共有 古い名義を 今の世代へ 相続登記 遺言・生前贈与 で凍結を防ぐ 判断力がある今
出典:一般的な進め方を単純化して作成(2026年9月時点)。個別の手続きは専門家にご確認ください。

①方針を決める:まず家族で「実家をどうするか」を言葉にします。 継いで住む・貸して家賃を得る・売って現金化する——正解は家庭ごとに違いますが、「決めていない」がいちばん危険です。 継ぐ人がいない実家をどうするかは 実家の空き家を相続したらどうする?放置のリスクと3つの選択肢 で全体像をつかめます。

②名義を整える:古い名義のままなら、元気なうちに相続登記を済ませます。 なお、相続で不動産を取得した場合は相続を知った日から3年以内の相続登記が義務です(令和6年4月1日施行)。 正当な理由なく怠ると過料の対象になります (出典:法務省 相続登記の申請義務化について・2026年9月時点)。 名義が兄弟の共有で迷う場合は 単独相続した実家の固定資産税、兄弟に分担義務はある? も参考になります。

③残し方を決める:判断能力がある今のうちに、遺言や生前贈与で「誰に何を残すか」を形にします。 これは次のセクションで詳しく整理します。

誰に・どう残すか(遺言と生前贈与)

このセクションの要点:残し方は大きく「遺言」と「生前贈与」。どちらも判断能力があるうちしかできません。

実家を特定の人に確実に残したいなら、方法は主に2つです。それぞれ向き・不向きがあります。

方法 向いている場面 注意点
遺言亡くなるまで自分で使い続けたい/相続人が多く揉めそう形式不備で無効になりやすい。公正証書が安心
生前贈与今のうちに名義を移し、相続時の争いを避けたい贈与税・登録免許税・不動産取得税がかかる場合がある

遺言は「元気なうちに書き、亡くなるまでは自分のもの」という点で使いやすい方法です。 とくに子がいない夫婦は、遺言がないと配偶者が実家を全部相続できないことがあります。詳しくは 子なし夫婦の相続は誰が?配偶者に実家を全部残すには遺言が必須 で解説しています。

生前贈与は、相続を待たずに今の世代へ名義を動かせるのが利点です。 ただし税金がからむため制度選びが重要になります。相続時にまとめて精算する 相続時精算課税の110万円控除はいつから?実家の生前贈与に使う など、使える制度を比べてから決めましょう。

どちらを選ぶにせよ共通するのは、「本人に判断能力があること」が大前提だという点です。 認知症が進んで意思確認ができなくなると、遺言も贈与もできなくなります。だからこそ「元気な今」がタイムリミットなのです。

動けなくなると何ができなくなるか

このセクションの要点:親か相続人が認知症になると、実家は「売れない・貸せない・分けられない」の三重ロックがかかります。

判断能力を失うと何が止まるのか。ここを知ると「今やる理由」が腹落ちします。

こうなると使えるのが成年後見制度です。判断能力が不十分になった人に代わり、 家庭裁判所が選んだ後見人が財産管理や契約を支援します (出典:法務省 成年後見制度について・2026年9月時点)。 ただし後見人は「本人の財産を守る」役割のため、 家族の都合での売却や生前贈与は家庭裁判所の許可がなければ簡単には認められません

つまり成年後見は「凍結を後から溶かす」手段ではあっても、家族が自由に実家を動かせる状態には戻りません。 認知症で実家が売れなくなったときの具体策は 認知症の親の実家が売れない|成年後見と家裁の許可・今できる対策 で詳しく解説しています。ここに至る前に手を打つのが、老老相続対策の本丸です。

今月やること

このセクションの要点:一度に全部は無理。まず「話す」「名義を確かめる」の2つから始めれば十分です。

※制度の要件・税の扱いは改正されることがあります。相続登記の義務や成年後見の詳細は、必ず法務省の最新情報や専門家の窓口でご確認ください。

次に読むべき記事

このセクションの要点:「継ぐ・売る・残す・凍結対策」を意思決定の順に読むと、老老相続の備えが一枚の地図になります。

老老相続の備えは、単独の記事だけでは完結しません。次の関連記事を順に読むと全体像がつかめます。

「継ぐより貸して資産にしたい」なら、格安中古物件を家賃収入に変える基本を 空き家問題を「資産」に変える。格安中古物件投資入門 で解説しています。老いた実家でも、直して貸せば毎月の家賃を生む資産に変わることがあります。

まとめ

老老相続でいちばん怖いのは、争いよりも「親か相続人が認知症になり、実家が売れない・分けられない・残せないの三重ロックで凍結する」ことです。

遺言も生前贈与も相続登記も、本人に判断能力がある今しかできません。 相続後は3年以内の相続登記が義務法務省・2026年9月時点)で、放置すれば過料と固定資産税だけが積み上がります。

だからこそ順番が大事です。まず方針を家族で話し、名義を整え、残し方を決める—— これが老老相続で実家を凍結させないための最短ルートです。個別の判断は必ず専門家にご相談ください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法務・税務上の助言ではありません。 実際の手続きにあたっては、必ず法務局や司法書士・弁護士・税理士など専門家にご確認ください。