人が住まなくなった古い実家の外観。認知症の親の実家をどうするか悩む様子をイメージ

「お盆に久しぶりに実家へ帰ったら、親の物忘れがずいぶん進んでいた」—— 2026年の夏も、こうした気づきから相続や実家の相談が増えています。 現代ビジネスやYahoo!ニュースでも、お盆時期に合わせて「認知症と実家」の記事が続きました(2026年8月時点)。

ここで多くの人がつまずくのが、「親が認知症になると、親名義の実家は“そのままでは”売れない」という事実です。 本人はもちろん、子どもが代わりに勝手に売ることもできません。 いざ施設の費用を工面しようとして、初めて壁にぶつかる人が後を絶ちません。

この記事は、その状況を ①なぜ売れないのか → ②もう進んでしまった場合(成年後見と家裁の許可)→ ③成年後見の落とし穴 → ④判断能力があるうちの対策 → ⑤実家が空き家・ボロ戸建ての場合 → ⑥今月やること という意思決定の順に整理します。ニュースの解説より、「で、自分はどうすればいいか」に重点を置きました。

① なぜ認知症だと親名義の実家は売れないのか

このセクションの要点は「不動産の売買には“本人の判断能力”が必要で、それを失うと契約そのものができなくなる」ということです。

家を売るという行為は、法律上の「契約」です。 契約は、売る本人が内容を理解し、自分の意思で結ぶことが前提になっています。 認知症が進んで判断能力を失うと、この「意思」が示せなくなり、売買契約が有効に結べなくなります。

「では家族が代わりに」と思っても、そう簡単ではありません。 親名義の不動産を子が勝手に売ることはできず、親の委任状も、判断能力がない状態では有効に作れません。 結果として、親名義の実家は「本人も家族も動かせない」状態で固まってしまいます。

これが、施設入所の費用や、空き家になった実家の処分でつまずく最大の理由です。 相続が始まってからの「売れない」問題は 相続した実家が売れないどうする?負動産化を防ぐ出口5つ で扱っていますが、今回はそのひとつ手前、「親が生きているうちに動けなくなる」問題です。

② もう進んでしまった場合:成年後見と家裁の許可

このセクションの要点は「判断能力を失った後は、成年後見制度を使うしかなく、居住用の家を売るには家庭裁判所の許可が別途いる」ということです。

すでに認知症が進み、本人が契約できない状態になってしまった場合、 合法的に実家を売る道はほぼ一つ、「成年後見制度」を使うことです。 家庭裁判所に申し立て、本人に代わって財産を管理する成年後見人を選んでもらいます。

ただし、後見人がついてもすぐに実家を売れるわけではありません。 ここが最重要ポイントです。 本人が住んでいた(または住む予定の)居住用不動産を処分するには、成年後見人であっても家庭裁判所の許可が別途必要で、 許可を得ずにした売却は無効になります (民法859条の3。出典:成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可|裁判所・2026年8月時点)。

許可が必要な「処分」には、売却だけでなく、賃貸借契約の締結・解除、抵当権の設定、建物の取り壊しなども含まれます (出典:居住用不動産処分許可の申立書|裁判所・2026年8月時点)。 つまり「空き家になった実家を貸す」「古いから取り壊す」といった判断も、勝手には進められないということです。

やりたいこと 成年後見人だけで可能か
実家(居住用)を売る不可。家庭裁判所の許可が必要(無許可は無効)
実家を貸す・取り壊す不可。居住用は同じく家裁の許可が必要
預貯金の管理・施設費の支払い後見人の職務として可能
本人のための必要な支出可能(本人の利益になる範囲)

家庭裁判所は「その売却が本当に本人のためになるか(施設費の工面など合理的な理由があるか)」を審査します。 投資目的や家族の都合だけを理由にした売却は、原則として許可されません。 申立ての手数料自体は収入印紙800円ほどですが、書類の準備や審査に相応の時間がかかります。

長く空き家になっていた古い戸建ての室内。判断能力を失うと処分が難しくなることをイメージ

③ 成年後見を使う前に知る落とし穴

このセクションの要点は「成年後見は“実家を売るための便利ツール”ではなく、始めると簡単にはやめられない仕組みだ」ということです。

成年後見は本人を守るための大切な制度ですが、 「実家を売りたいから」という理由だけで気軽に始めると、あとで想定外に感じる点があります。 申し立てる前に、次の3つは必ず理解しておきましょう。

つまり成年後見は「困ったときの最終手段」です。 本当に避けたいのは、この最終手段しか選べない状況に追い込まれること。 そのために効くのが、次に説明する「判断能力があるうちの対策」です。

④ 判断能力があるうちにできる3つの対策

このセクションの要点は「親の判断能力がまだあるうちに手を打てば、成年後見に頼らず実家を動かせるようになる」ということです。

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。 認知症は「進んでから」では打てる手が一気に減ります。 逆に言えば、まだ会話ができ、意思を示せる“今”なら、選択肢は複数あります。 代表的なのが次の3つです。

判断能力があるうちの選択肢

1
家族信託
で託す
2
任意後見
を契約
3
元気なうちに
売る・整理
後見に頼らず
実家を動かせる
対策 どんな仕組みか 向いている人
家族信託実家などの管理・処分の権限を、元気なうちに子など信頼できる人へ託す契約。認知症後も子の判断で売却等ができる実家を将来売る・貸す可能性があり、家族に任せたい人
任意後見将来判断能力が落ちたとき、誰に後見人になってほしいかを元気なうちに自分で決めておく契約後見人を家族や信頼する専門家に指名しておきたい人
生前の売却・整理使う予定がない実家を、親が元気なうちに売却・処分してしまう。判断能力の問題が起きないすでに空き家で、活用予定がない実家を抱える人

なかでも近年広がっているのが家族信託です。 実家の管理・処分の権限をあらかじめ子に託しておけば、 親の判断能力が落ちた後でも、成年後見や家裁の許可なしに、子の判断で売却や賃貸に動けるのが大きな利点です。 ただし契約の設計には専門知識がいるため、司法書士・弁護士など専門家と組んで作るのが安全です。

「まだ元気だから、その話はしづらい」と先延ばしにしがちですが、 これらの対策は親の判断能力があるうちにしか使えません。 お盆に顔を合わせた今が、家族で話し始める数少ないタイミングです。

※家族信託・任意後見・成年後見は、個々の家庭の事情によって最適解が変わり、契約や手続きには専門知識が必要です。 本記事は制度の全体像を示すもので、個別の判断は必ず司法書士・弁護士・税理士など専門家に相談のうえで進めてください。

⑤ 実家が空き家・ボロ戸建てになっている場合

このセクションの要点は「動かせるうちに実家を“資産”として活かせば、売り急いで二束三文で手放さずに済む」ということです。

すでに親が施設に入り、実家が空き家になっているなら、対応は待ったなしです。 人が住まなくなった家は驚くほど早く傷み、放置すれば固定資産税や近隣トラブルの負担だけが積み上がります。 維持にいくらかかるのかは 実家の維持費は年間いくら?持ち続けて損する人・貸す人 に試算例つきでまとめています。

ここで知っておきたいのは、古くて持て余す実家でも、直して貸せば「毎月家賃を生む資産」に変わるということです。 「売るしかない」と思い込む前に、貸す・活かすという選択肢も比べてみてください。 空き家を資産に変える全体像は 空き家問題を「資産」に変える。格安中古物件投資入門、 相続した実家の進め方は 実家の空き家を相続したらどうする?放置のリスクと3つの選択肢 で解説しています。

「まず何から手をつければいいか分からない」なら、名義の確認から始まる手順を 実家じまいは何から始める?費用と手順、後悔しない進め方 にまとめました。 いずれの道を選ぶにせよ、親の判断能力があるうちに名義と方針を決めておくことが、後の負担を大きく減らします。

⑥ 今月やること(チェックリスト)

このセクションの要点は「大きな決断の前に、まず“今すぐできる小さな確認”を今月中に済ませておく」ことです。

いきなり信託や売却を決める必要はありません。 まずは足元の状況を把握するだけで、打てる手が見えてきます。次の3つを今月中に確認しましょう。

この記事で覚えて帰ってほしいのは、たった一つ。 「認知症が進んでからでは、実家は本人も家族も動かせなくなる。動かせるのは“今”だけ」ということです。

次に読むべき記事

認知症と実家の問題は「①判断能力があるうちに方針を決める → ②名義を整える → ③貸す・売る・活かすの出口を選ぶ」の順に進めると迷いません。近い状況の記事から読んでみてください。

まとめ

認知症が進むと、親名義の実家は本人も家族も売れなくなり、 合法的に動かすには成年後見と家庭裁判所の許可が必要になります(許可なしの処分は無効)。 しかも成年後見は始めると簡単にはやめられない、重い手段です。

だからこそ大事なのは、親の判断能力があるうちに、家族信託・任意後見・生前の整理という選択肢を検討しておくこと。 そして持て余す実家も、直して貸せば家賃を生む資産に変えられます。 「どうしよう」で止まらず、動かせる“今”のうちに一歩を踏み出すことを、ボロリッチはお伝えしています。