築古戸建ての実家。相続前に生前贈与で子へ移すことを考えるイメージ

「実家は相続してから考えればいい」——多くの人がそう思っています。ですが最近、 相続する前に動いたほうが得な制度改正が静かに定着しました。 それが相続時精算課税の「年110万円の基礎控除」です。

令和6年(2024年)1月1日以後の贈与から、相続時精算課税を選んでいても 暦年課税とは別枠で毎年110万円まで非課税で贈与できるようになりました。 しかもこの110万円分は、あとで相続税の計算に持ち戻されません(出典:国税庁 No.4103・2026年9月時点)。

この記事は制度の条文を並べる解説ではなく、 「自分に使えるか → いつから → 何をするか → 落とし穴」を意思決定の順に決めるための保存版としてまとめます。 実家という不動産を、親が元気なうちに無理なく子へ移していきたい人のための地図です。

結論:3行でわかる「110万円基礎控除」

このセクションの要点:令和6年から相続時精算課税でも年110万円まで非課税で贈与でき、その110万円は相続時に持ち戻されません。

先に結論を3点でまとめます。

つまり読者の悩みが、「実家を相続してから固定資産税や売却で困る」から「相続する前に少しずつ動いておく」へ転換できる、というのが今回のいちばんの変化です。

※本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務判断ではありません。適用の可否や具体的な計算は、税理士または所轄の税務署にご確認ください。

何が変わった?相続時精算課税の弱点が消えた

このセクションの要点:これまで敬遠されがちだった相続時精算課税に、毎年使える非課税枠が加わりました。

相続時精算課税は、もともと累計2,500万円までの特別控除があり、超えた分に一律20%で贈与税がかかる仕組みです(出典:国税庁 No.4103・2026年9月時点)。 大きな金額をまとめて移せる一方、これまでは贈与した財産がすべて相続時に持ち戻され、少額でも申告が必要という使いにくさがありました。

ここに、令和6年1月1日以後の贈与から年110万円の基礎控除が加わりました。 年110万円までなら贈与税がかからず、申告も不要で、しかも相続時に持ち戻されない——この3点がそろったことで、 「まとめて2,500万円」だけでなく「毎年少しずつ」という使い方が現実的になったのです。

築古の実家や現金を、親が元気なうちに時間をかけて子へ移すという選択肢が広がった、と考えるとイメージしやすいはずです。 実家を相続してから何をするか全体像は、 実家の空き家を相続したらどうする?放置のリスクと3つの選択肢 も合わせてご覧ください。

暦年課税とどっち?違いを表で整理

このセクションの要点:どちらも年110万円まで非課税ですが、「持ち戻し」の扱いと「一度選ぶと戻れるか」が決定的に違います。

贈与のやり方は暦年課税相続時精算課税の2つ。混同しやすいので、実務で効く違いだけ並べます。

項目 暦年課税 相続時精算課税
年110万円の非課税ありあり(令和6年〜)
110万円分の持ち戻し相続前の一定期間は加算される加算されない
まとめて移す枠なし(毎年110万まで)累計2,500万円の特別控除
一度選ぶといつでも選べる暦年課税に戻せない

※出典:国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択(2026年9月時点)。暦年課税の持ち戻し期間や具体的な計算は税理士・税務署にご確認ください。

いちばんのポイントは、精算課税の年110万円は「持ち戻されない」という一点です。 相続の直前に贈与しても、この110万円分は相続財産に足し戻されません。 「親が高齢で、暦年贈与だと持ち戻されてしまうかも」という人ほど、精算課税の110万円が効いてきます。

築古戸建ての室内。実家という不動産を生前に子へ移す準備のイメージ

まず確認:自分と親は使える組み合わせか

このセクションの要点:贈与する人・受け取る人の年齢と関係に条件があります。まずそこを切り分けましょう。

相続時精算課税は誰でも使えるわけではありません。基本の対象は次のとおりです(出典:国税庁 No.4103・2026年9月時点)。

立場 基本の条件
贈与する人(親・祖父母)贈与の年の1月1日で60歳以上
受け取る人(子・孫)贈与の年の1月1日で18歳以上の推定相続人である子、または孫
手続き最初に選択する年の翌年の申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」を提出

※年齢・続柄・提出書類の詳細は国税庁 No.4103(2026年9月時点)をご確認ください。個別の適用は税理士・税務署へ。

注意したいのは、年110万円だけを使いたい場合でも、最初に「選択届出書」の提出が必要な点です。 いったん精算課税を選ぶと、その親からの贈与はその後ずっと精算課税になり、暦年課税には戻せません。 「毎年110万だけ非課税で移したい」というつもりでも、届出=精算課税を選ぶという重い意思決定になることを押さえてください。

図解:実家を生前に移すときの進め方

このセクションの要点:現金は毎年110万で移しやすい一方、実家(不動産)は評価・登記・費用がからむので順番が大事です。

110万円という枠は現金なら毎年きれいに使えますが、実家という不動産は「毎年110万円ずつ」に分けにくいのが実情です。 不動産を精算課税で移すときの一般的な流れを、意思決定の順に並べます。

図解:実家を生前に移すときの進め方

①目的を決める ②評価額を調べる ③選ぶか判断 ④登記・申告 売る/貸す/住む 出口から逆算 相続税評価額 2500万枠と比較 精算課税か 暦年か(不可逆) 名義変更・届出
出典:国税庁 No.4103 をもとに、一般的な進め方を単純化して作成(2026年9月時点)

実家のような大きな財産は、2,500万円の特別控除で一気に移すのか、 現金を年110万円ずつ移すのかで戦略が変わります。 どちらにせよ、移したあとに売るのか・貸すのか・自分が住むのかという出口を先に決めておくと、ムダな贈与税や登記費用を避けられます。

「相続してから売る」場合と「生前にもらってから売る」場合では、使える特例や税金の計算が変わります。 相続後に売る前提なら、 相続した空き家を売るなら3年以内|3000万円控除の期限の数え方 で期限の考え方も確認しておくと、判断がぶれません。

費用と落とし穴|一度選ぶと戻れない

このセクションの要点:110万円は魅力的でも、精算課税は「後戻りできない選択」。不動産では登記費用や小規模宅地の特例に注意します。

110万円の非課税枠だけを見て飛びつくと、あとで後悔することがあります。主な落とし穴を整理します。

暦年に戻せない
その親からは以後ずっと精算課税

登記費用がかかる
生前贈与は登録免許税が相続より高め

使えなくなる特例も
小規模宅地の特例は生前贈与だと不可

親の判断力が要る
認知症が進むと贈与自体が難しくなる

特に大きいのは、不動産を生前に移すと相続時の「小規模宅地等の特例」など、相続でこそ使える優遇が使えなくなることがある点です。 現金の110万円贈与は素直に効きますが、実家そのものを移すかどうかは、相続で持ったまま売る場合と数字で比べてから決めるべきです。 判断は必ず税理士に相談してください。

もう一つ見落としがちなのが親の判断能力です。認知症が進むと贈与契約そのものが結べなくなります。 この点は 認知症の親の実家が売れない|成年後見と家裁の許可・今できる対策 で詳しく触れています。「元気なうちに動く」ことが、110万円の枠を活かす前提条件だと考えてください。

親が元気なうちにやるべき準備の全体像は、 実家の生前対策は何をする?親が元気なうちの準備リスト にまとめています。この記事の110万円贈与は、その準備リストの中の「税金・名義」の一手として位置づけると分かりやすいはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務上の助言ではありません。適用の可否や税額の計算は、必ず税理士または所轄の税務署にご確認ください。

次に読むべき記事

このセクションの要点:生前対策→相続後の手続き→売却・活用の順に読むと、実家をめぐるお金の判断で迷わなくなります。

110万円の枠だけで完結する話ではありません。実家をどうするかは、次の関連記事を意思決定の順に読むと全体像がつかめます。

「売る」ではなく「貸して資産にする」道を検討したい方は、格安中古物件投資の基本を 空き家問題を「資産」に変える。格安中古物件投資入門 で解説しています。生前に受けた実家を負動産で終わらせない選択肢として、あわせてご覧ください。

まとめ

令和6年1月から、相続時精算課税でも年110万円の基礎控除が使えるようになり、 この110万円分は相続時に持ち戻し加算されません国税庁 No.4103・2026年9月時点)。

これで読者の悩みは「相続してから困る」から「相続する前に少しずつ動く」へ前倒しできます。 ただし精算課税は一度選ぶと暦年に戻せず、実家のような不動産では小規模宅地の特例が使えなくなる場合もあります。

まずは実家の評価額を把握し、出口を家族で決めること。そのうえで、不動産を移すなら税理士に試算してもらってから届出を出す—— これが110万円の枠を後悔なく活かす順番です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務上の助言ではありません。 実際の手続きにあたっては、必ず税理士や税務署など専門家にご確認ください。