誰も住まなくなった築古の実家。相続放棄で手放すべきか、手放し方を考える

「田舎のいらない実家を相続したくない。相続放棄すれば縁が切れるはず」——そう考える人が、今まさに増えています。 相続放棄の申述受理件数は年32万件を超え、過去最多の水準です(司法統計・2026年時点)。

ただ、放棄は「手放したい」気持ちに応える最初の一手である一方、誤解したまま進めると取り返しがつかない手続きでもあります。 期限を1日でも過ぎれば放棄できず、しかも放棄しても管理義務が残るケースがあるのです。

この記事は、相続放棄で実家を手放したい人のために、 放棄で本当に手放せるのか → 自分はすべきか → 期限はいつまでか → 放棄後に残る義務 → 放棄以外の手放し方 → 今月やること の順に、法令など一次情報を根拠に整理したまとめ(保存版)です(2026年11月時点)。個別のテーマは関連記事に深掘りがあるので、順にたどってください。

① まず結論|放棄は「最初の一手」だが万能ではない

このセクションの要点は「相続放棄は『プラスもマイナスも一切相続しない』強力な手段。ただし一部だけ放棄はできず、期限も短く、放棄後も義務が残ることがある」ということです。

相続放棄とは、家庭裁判所に申述してはじめから相続人でなかったことにする手続きです。借金などのマイナスも、実家などのプラスも、まとめて引き継がないという意思表示になります。

「手放したい」人には有力な選択肢ですが、下の3点を誤解すると後悔につながります。まずはこの前提を押さえてから、自分のケースに当てはめてください。

つまり放棄は「縁が切れる魔法」ではなく、手放すための出口の一つ。この記事では、放棄が向くケースと、放棄以外の手放し方(売却・国庫帰属)まで並べて、あなたが順番に判断できるようにしていきます。

② なぜ今、相続放棄が過去最多なのか

このセクションの要点は「『負動産』を引き継ぎたくない人が増え、相続放棄は年32万件超で過去最多。土地だけ国に返す制度も実際に使われ始めている」ということです。

地方の空き家や使い道のない土地は、持っているだけで固定資産税・管理費・将来の解体費がかかる「負動産」になりがちです。 こうした背景から、相続放棄の申述受理件数は年32万件を超え過去最多の水準にあります(司法統計・最高裁判所/2026年時点)。

一方、「土地だけを手放したい」ニーズに応える相続土地国庫帰属制度(令和5年4月施行)も動き出しています。 法務省の速報値では、令和8年9月30日時点で申請6,125件・国庫帰属が実現したのは3,231件です (法務省・相続土地国庫帰属制度の統計/2026年時点)。

数字が示すのは、「手放したい」は特別なことではなく、多くの人が直面する当たり前の悩みになっているという事実です。だからこそ、感情で即断せず、放棄の仕組みを正しく理解して選ぶことが大切になります。

誰も住まなくなり荷物が残る実家。放棄しても占有していれば管理義務が残る

③ 自分は放棄すべきか|得する人・慎重に考える人

このセクションの要点は「放棄は『明らかにマイナスが大きい』ときの出口。わずかでも価値がある実家は、放棄より売却・活用のほうが得をすることがある」ということです。

「いらない」と感じても、本当に放棄すべきかは財産の中身で変わります。放棄が向く人・慎重に考えたい人を整理しました。

放棄が向きやすい人 放棄の前に立ち止まりたい人
借金・連帯保証が明らかに多い売れる見込みのある実家・土地がある
再建築不可などで売却も活用も困難賃貸や自分で使う余地がある
遠方で管理も処分も現実的に不可能他に相続したい預貯金・財産がある

見落としがちなのが、放棄すると実家以外のプラスの財産も一切受け取れないこと。預貯金や他の不動産まで手放すことになるので、「負債と資産のどちらが大きいか」を先に把握するのが鉄則です。

また、わずかでも値がつく実家なら、放棄より『売って現金化』のほうが手取りで得になることが少なくありません。 売れないと思い込んでいた実家の出口は 相続した実家が売れないどうする?負動産化を防ぐ出口5つ に、解体せず売る方法は 空き家は解体せず売れる|古家付き・現況渡し・買取の使い分け にまとめています。放棄は「売っても活用してもダメなとき」の最後の手段と考えてください。

放棄すべきかどうか自体に迷うなら、早い段階で専門家に相談を。相続した実家は誰に相談?司法書士・税理士・不動産会社の使い分け で、相談先の選び方を整理しています。

④ 期限は「3カ月」|いつから数えるかが勝負

このセクションの要点は「放棄の期限は『相続開始を知ったときから3カ月』。この起算点を取り違えると、間に合うはずの放棄を逃す」ということです。

民法915条は、相続人が自分のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内(熟慮期間)に、承認するか放棄するかを決めると定めています (民法(e-Gov法令検索)/2026年11月時点)。

ポイントは「亡くなった日から3カ月」ではないこと。たとえば疎遠だった親族の死を後から知った、先順位の相続人が放棄して自分に順番が回ってきた——こうしたケースでは、その事実を知った時が起算点になります。

熟慮期間3カ月の進め方(手放したいとき)

1
相続財産を
洗い出す
2
放棄するか
判断する
3
家裁へ
申述する

財産の調査が3カ月で終わらないときは、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てられる場合があります。起算点の具体的な数え方、先順位者が放棄したときの「再転相続」の考え方は 相続放棄の3か月はいつから?起算点と再転相続の数え方 に詳しくまとめています。

※遺産に手をつけると放棄できなくなることがあります。預貯金を使う、遺品を売る・捨てるなどの行為は「単純承認」とみなされる場合があるため、放棄を考えているうちは財産に手をつけず、早めに専門家へ相談してください(2026年11月時点)。

⑤ 放棄しても管理義務が残る|民法940条の落とし穴

このセクションの要点は「放棄しても、その財産を現に占有していれば、次の管理者へ引き継ぐまで保存義務が残る。『放棄=即・無関係』ではない」ということです。

ここが最大の誤解ポイントです。民法940条は、相続放棄をした人でも、放棄の時にその財産を現に占有しているときは、次に管理すべき人に引き渡すまで、自己の財産と同一の注意をもって保存しなければならないと定めています(令和5年4月施行の改正後。民法 第940条(e-Gov法令検索)/2026年11月時点)。

たとえば、放棄した実家が倒壊しそうで近隣に危険が及ぶ、といった場合に、占有していた放棄者が全く無関係とは言い切れない場面があり得ます。「放棄すれば放っておいてよい」ではない、という理解が重要です。

「放棄したのに管理を求められた」というトラブルを避けるには、放棄前に物件の状態・占有の有無・次の管理者の有無を確認しておくこと。空き家の相続放棄で残る義務と手放す前の選択肢は 空き家の相続放棄は危険?残る管理義務と手放す前の選択肢 で深掘りしています。

⑥ 放棄以外の手放し方|売却・国庫帰属

このセクションの要点は「手放す方法は放棄だけではない。『売る』『土地だけ国に返す』も検討してから、放棄を選ぶ」ということです。

「いらない」を解決する出口は、実は複数あります。放棄は全部を手放す代わりにプラスの財産も失うので、まず次の手を比べてから決めましょう。

手放し方 向くケース/注意点
売って現金化少しでも値がつくなら第一候補。古家付き・現況渡し・買取で解体費を抑えられる。プラスの財産も受け取れる
相続土地国庫帰属土地だけを国に引き取ってもらう制度。建物があると原則対象外で解体が前提。審査・負担金があり却下条件もある
相続放棄借金が多い・売却も活用も困難なときの最後の手段。全部を手放すがプラスも失う。占有時は管理義務が残り得る

土地だけ手放したい場合の国庫帰属制度は、却下される条件や負担金の目安を 相続したいらない土地を手放す|国庫帰属制度の却下条件と費用 で確認できます。建物が残っていると原則使えないため、「解体してから国庫帰属」か「古家付きで売却」かの比較が実務では重要になります。

なお、売る場合は空き家の3000万円特別控除を使えると手取りが大きく変わります。2023年に相続した実家は2026年12月31日までの売却が要件になるなど期限があるため、放棄か売却かで迷っているなら早めの判断が必要です(国税庁 No.3306/2026年11月時点)。控除が使えなかった理由と回避法は 相続空き家の3000万円控除が使えなかった7つの理由と回避法 にまとめています。

⑦ 今月やること|手放すための順番

このセクションの要点は「放棄か・売るかで迷っても、やる順番は同じ。『財産を洗い出す→出口を比べる→期限内に動く』を今月のうちに始める」ということです。

  1. 相続財産を洗い出す:不動産・預貯金・借金・連帯保証まで、プラスとマイナスを一覧にします。ここが全ての判断の土台です。
  2. 実家に値がつくか当たりをつける:売れそうなら放棄より売却が得なことが多いので、査定や相談で「売れる/売れない」を早めに見極めます。
  3. 出口を比べる:売る・国庫帰属・放棄を、手取りと手間で比較。迷ったら専門家へ。
  4. 期限から逆算して動く:放棄するなら熟慮期間3カ月、売って3000万円控除を狙うなら年末などの期限から逆算。間に合わないなら期間伸長の申立ても検討します。

大事なのは、「手をつけない」こと。放棄を考えているうちに遺産を処分すると放棄できなくなる恐れがあるため、判断が固まるまで財産には触れず、調査と相談を先に進めてください。

⑧ 次に読むべき記事

相続放棄は「手放したい」に応える有力な出口ですが、一部だけの放棄はできず、期限は3カ月、占有していれば管理義務も残り得ます(民法・2026年11月時点)。 放棄を決める前に、売却・国庫帰属も含めて出口を比べるのが、後悔しないコツです。

まとめ

相続放棄は年32万件超で過去最多(司法統計・2026年時点)。「いらない実家を手放したい」は、もはや多くの人の当たり前の悩みです。 ただし放棄は、プラスもマイナスも全部を手放す手続きで、期限は原則相続開始を知ったときから3カ月、放棄後も占有していれば管理義務が残ることがあります。

だからこそ、放棄ありきではなく「売る・国庫帰属・放棄」を並べて比べるのが正解。少しでも値がつく実家なら、手放すどころか家賃を生む資産に変えられることもあります。

「うちの実家は放棄するしかないと思っていたけれど、活かせないか」——そんな一見むずかしい築古こそ、ボロリッチの得意分野です。 状態診断から直し方・貸し方・売り方まで、実践者の視点で一緒に出口を設計します。