相続した使い道のない土地。国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度を考えるイメージ

「実家は使うけれど、いっしょに相続した農地や山林、私道の持分だけは要らない」—— 売ろうにも買い手がつかず、持っているだけで固定資産税と草刈りがのしかかる。 そんな『負動産』を国に引き取ってもらうのが、相続土地国庫帰属制度です。

令和5年(2023年)4月に始まったこの制度は、少しずつ使われ始めています。 法務省の統計では2026年7月末時点で申請5,863件・国庫帰属3,008件に達しました (出典:法務省 相続土地国庫帰属制度の統計・2026年9月時点)。

ただし「どんな土地でも引き取ってくれる」わけではありません。 この記事は制度の条文を並べる解説ではなく、 「自分は対象か → 引き取ってもらえる土地か → いくらかかるか → 放棄や売却とどう使い分けるか」を意思決定の順に決める保存版としてまとめます。

結論:3行でわかる相続土地国庫帰属

このセクションの要点:相続した土地を、負担金を払えば国に引き取ってもらえる制度。ただし土地の状態に厳しい条件があります。

先に結論を3点でまとめます。

つまり「タダで手放せる」のではなく、お金を払ってでも重荷を下ろす制度だと理解するのが出発点です。 売れる土地なら売ったほうが手元に現金が残ります。売れない・貸せない土地の最後の出口として考えてください。

※本記事は一般的な情報提供であり、個別の法務・税務判断ではありません。適用の可否や具体的な手続きは、法務局(相談窓口)や司法書士・弁護士などの専門家にご確認ください。

何が起きている?制度が静かに定着してきた

このセクションの要点:始まって3年で申請が積み上がり、「いらない土地の出口」として現実的な選択肢になってきました。

相続土地国庫帰属制度は、令和5年(2023年)4月27日に始まりました。 相続や遺贈で土地を取得したものの使い道がない人が、土地を手放して国庫に帰属させることを可能にする制度です (出典:法務省 相続土地国庫帰属制度について・2026年9月時点)。

利用は着実に伸びています。法務省の速報統計(2026年7月末時点)では、次のような状況です。

項目 件数(2026年7月末・速報)
申請5,863件
国庫帰属(承認)3,008件
うち宅地1,115件
却下・不承認却下85件/不承認96件

※出典:法務省 相続土地国庫帰属制度の統計(2026年9月時点・速報値)。取下げも1,102件あり、審査の過程で申請を取り下げる例も一定数あります。

注目したいのは、帰属が認められた土地で最も多いのが「宅地」だという点です。 農地や山林だけでなく、相続した実家の敷地や空き地も対象になり得ることを示しています。 「田舎の土地専用の制度」ではない、と押さえておきましょう。

まず確認:自分は使える人か

このセクションの要点:使えるのは「相続・遺贈で土地を取得した人」。共有地は共有者全員でないと申請できません。

この制度を使えるのは、相続または遺贈(相続人に対する遺贈)によって土地の所有権を取得した相続人です (出典:法務省 相続土地国庫帰属制度について・2026年9月時点)。 売買で買った土地や、法人が持つ土地は対象外です。

見落としやすいのが共有の土地です。兄弟で相続した土地や、亡くなった親と持分を分け合っていた土地は、 共有者全員がそろって申請する必要があります。1人だけ「自分の持分だけ手放す」ことはできません。 相続した実家の名義や共有をどう整理するかで迷う場合は、 相続した実家が売れないどうする?負動産化を防ぐ出口5つ もあわせてご覧ください。

なお、相続放棄をした人はそもそも土地を取得していないため、この制度は使えません。 「放棄」と「国庫帰属」はまったく別の手続きです。この違いは後の使い分けで詳しく整理します。

草の生えた相続地。国に引き取ってもらう前に建物解体や境界確定が必要になるイメージ

引き取ってもらえない土地(却下・不承認)

このセクションの要点:建物・担保・境界不明などは「そもそも申請できない」。崖や埋設物など管理に手間がかかる土地は「審査で通らない」ことがあります。

この制度の一番のハードルがここです。土地の状態によって、①そもそも申請できない(却下要件)と、 ②申請はできても審査で通らない(不承認要件)の2段階でふるいにかけられます (出典:法務省 相続土地国庫帰属制度のご案内(申請の手引き)・2026年9月時点)。

段階 代表例
①申請できない
(却下)
建物がある/担保権・使用収益権がついている/他人の利用が予定されている/土壌汚染がある/境界が不明・所有権に争いがある土地
②承認されない
(不承認)
管理に過分な費用・労力がかかる崖がある/地上・地下に除去が必要な有体物がある/隣地と争わないと管理できない/通常の管理に過分な費用がかかる土地

※出典:法務省 申請の手引き(2026年9月時点)。個別の土地が要件に当たるかは法務局の相談窓口でご確認ください。

実務でよく引っかかるのが「建物がある土地は申請できない」点です。 築古の空き家が建ったままでは対象外になるため、先に建物を解体して更地にする必要があります。 解体費用をかけてまで手放す価値があるかは、売却と比べて判断すべきところです。解体せずに売る選択肢は 空き家は解体せず売れる|古家付き・現況渡し・買取の使い分け で解説しています。

もう一つ多いのが「境界が不明」です。相続した古い土地は境界杭がなく、隣地との境があいまいなことが珍しくありません。 その場合は測量や隣地との立会いで境界を確定してからでないと申請に進めません。 「申請すればすぐ手放せる」ではなく、手放せる状態に整える準備が要ると考えておきましょう。

いくらかかる?負担金と費用・審査期間

このセクションの要点:手放すのにもお金がかかります。1筆ごとの審査手数料に加え、承認されたら負担金(多くは原則20万円)を納めます。

国庫帰属は無料ではありません。かかるお金は大きく2つです。

これに加えて、建物の解体費・測量費・専門家への依頼料など、申請前の「土地を整える費用」がかかることがあります。 とくに解体や測量は数十万円〜になることもあり、ここが総額を大きく左右します

審査には時間もかかります。書類審査だけでなく現地調査を経て承認・不承認が決まるため、申請から結果まで数か月単位で見ておくのが現実的です。 急いで手放したい事情がある場合は、並行して売却や引き取り業者もあたっておくと、身動きが取れなくなりません。

図解:放棄・売却・国庫帰属の使い分け

このセクションの要点:「いらない土地」の出口は3つ。まず売れるか、次に放棄が間に合うか、最後に国庫帰属という順で考えると迷いません。

国庫帰属はあくまで出口の一つです。相続放棄・売却(引き取り含む)と並べて、意思決定の順に整理します。

図解:いらない土地の出口を決める順番

①売れるか ②放棄が要るか ③国庫帰属 ④準備・費用 売却・引き取り 現金が残る 相続放棄 3か月以内 全財産が対象 国庫帰属 土地だけ手放す 負担金が要る 解体・測量・ 境界確定
出典:法務省の各案内をもとに、一般的な進め方を単純化して作成(2026年9月時点)
出口 向いている場面 注意点
売却・引き取り買い手・引き取り手が見つかる土地まずここから。現金が残るのが最大の利点
相続放棄負債も多く、実家も含めすべて要らない原則相続開始を知って3か月以内。土地だけ選べない
国庫帰属実家は使うが特定の土地だけ要らない負担金が要り、要件も厳しい。準備に時間がかかる

ここで大事なのが相続放棄との違いです。相続放棄は原則として相続開始を知ってから3か月以内という期限があり、 しかもプラスの財産も含めてすべてを手放すため、「実家は継ぎたいが山林だけ要らない」という選び方はできません。 放棄の期限や数え方は 相続放棄の3か月はいつから?起算点と再転相続の数え方 で詳しく解説しています。

一方の国庫帰属は期限がなく、要らない土地だけをピンポイントで手放せるのが強みです。 「実家は残す・特定の土地だけ処分したい」なら国庫帰属、「まるごと要らない・借金もある」なら期限のある相続放棄——と場面で使い分けます。

今月やること

このセクションの要点:いきなり申請せず、「売れるか」「要件に当たらないか」を先に確認するのが遠回りに見えて最短です。

※制度の要件・手数料・負担金は改正されることがあります。申請前に必ず法務省の最新情報と法務局の窓口でご確認ください。

次に読むべき記事

このセクションの要点:手放すか活かすか。売却・放棄・活用まで並べて読むと、相続した土地の判断で迷わなくなります。

国庫帰属は「手放す」出口の一つにすぎません。相続した土地・空き家をどうするかは、次の関連記事を意思決定の順に読むと全体像がつかめます。

「手放す」ではなく「貸して資産にする」道を検討したい方は、格安中古物件投資の基本を 空き家問題を「資産」に変える。格安中古物件投資入門 で解説しています。要らないと思った土地でも、活かし方次第で毎月の家賃を生む資産に変わることがあります。

まとめ

相続土地国庫帰属制度は、相続した「いらない土地」を国に引き取ってもらえる制度で、 2026年7月末時点で申請5,863件・帰属3,008件と着実に定着してきました (法務省統計・2026年9月時点)。

ただし建物がある・境界が不明・担保がついた土地などは申請できず、承認されても 負担金(多くの土地で原則20万円)や解体・測量の費用がかかります。無料で手放せる制度ではありません。

だからこそ順番が大事です。まず売れないかを確かめ、要件を満たすか確認し、総額を試算してから申請する—— これが「負動産」を後悔なく手放す最短ルートです。個別の判断は必ず法務局や専門家にご相談ください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法務・税務上の助言ではありません。 実際の手続きにあたっては、必ず法務局や司法書士・弁護士など専門家にご確認ください。