「遠方の実家が空き家のまま。管理も面倒だし、いっそ相続放棄してしまいたい」—— そう考える方は少なくありません。しかし、相続放棄をすれば空き家の問題が すべて解決するわけではない、という点は意外と知られていません。
実は、相続放棄をしても一定の条件下では家屋の管理義務が残るケースがあり、 また相続放棄以外にも「相続土地国庫帰属制度」という手放し方が用意されています。
この記事では、いらない実家の空き家を相続放棄する前に知っておきたい注意点と、 国に土地を引き取ってもらう新しい制度について解説します。放置した場合のリスクや 売却・賃貸という選択肢については 実家の空き家を相続したらどうする?放置のリスクと3つの選択肢 でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
目次
なぜ「いらない実家」を相続放棄したくなるのか
総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査」によると、日本全国の空き家数は約849万戸にのぼり、 総住宅数に占める割合は13.6%を記録しました (出典:総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査」)。 この中には、相続したものの活用の見込みが立たず「いらない」と感じている実家が 数多く含まれているとみられます。
老朽化が進んで買い手がつきにくい、遠方で管理に通えない、解体費用まで 持ち出しになりそう——こうした事情から「もう相続自体をなかったことにしたい」と、 相続放棄を検討する方が増えています。
放置した場合に固定資産税が最大6倍になりうるリスクや、相続登記義務化のポイントは 実家の空き家を相続したらどうする?放置のリスクと3つの選択肢 で解説していますが、この記事ではさらに一歩進んで「手放す」こと自体に焦点を当てます。
相続放棄の基本と3ヶ月の期限
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産を一切引き継がない手続きです。 空き家だけを放棄して預金は受け取る、といった選択はできず、 プラスの財産もマイナスの財産もすべて放棄することになります。
相続放棄をするには、自己のために相続の開始があったことを知った時から 3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ 申述する必要があります(この期間を「熟慮期間」と呼びます)。 期間内に判断できない事情がある場合は、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることも 可能です(出典:裁判所「相続の放棄の申述」)。
相続放棄の基本的な流れ
受理すれば成立
注意したいのは、自分が相続放棄をしても、空き家という「モノ」自体が 消えてなくなるわけではないという点です。放棄をすると、次の順位の相続人に 相続権が移ります。相続人全員が放棄すれば、最終的には相続財産の清算人が 選任されるまで、家屋は宙に浮いた状態になります。
※相続放棄の要件・手続きの詳細は個々の状況によって異なります。実際の手続きは 家庭裁判所または弁護士・司法書士など専門家にご確認ください。
【注意】相続放棄しても管理義務が残ることがある
ここが、多くの方が見落としがちなポイントです。「相続放棄をすれば、 空き家に関する責任から完全に解放される」と考えている方は少なくありませんが、 実はそう単純ではありません。
令和5年(2023年)4月1日に施行された改正民法第940条第1項では、 相続放棄をした人が、放棄した時点でその財産を「現に占有している」場合、 次の相続人または相続財産の清算人に財産を引き渡すまでの間、 自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならない と定められています(出典:民法第940条第1項)。
図解:相続放棄後に保存義務が残るかどうかの分かれ目
たとえば、実家に同居していた相続人が相続放棄をした場合や、鍵を預かって 定期的に空気の入れ替えや見回りをしていた相続人が放棄した場合は、 「現に占有していた」とみなされ、保存義務が残る可能性があります。 一方で、遠方に住んでいて実家の管理に一度も関わっていなかった相続人であれば、 保存義務を負わないと整理されています。
保存義務がある間に建物が倒壊して隣家に被害を与えれば、損害賠償責任を 問われる可能性も否定できません。「放棄すれば終わり」ではなく、 次の相続人や相続財産の清算人に引き渡すまでは関わりが続く場合がある、 という点を理解しておく必要があります。
※保存義務の有無や範囲は、占有の実態や個々の事情によって判断が分かれます。 実際の該当性については弁護士など専門家にご確認ください。
もう一つの手放し方「相続土地国庫帰属制度」
相続放棄は「相続そのものをなかったことにする」手続きであるため、 預金など他のプラスの財産まで手放すことになりますし、他の相続人に 責任が移るだけで根本的な解決にはならないという側面もあります。
そこで令和5年(2023年)4月27日から始まったのが、相続または遺贈によって 取得した土地について、法務大臣の承認を受けて土地の所有権を国庫に帰属させる ことができる「相続土地国庫帰属制度」です (出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」)。 申請先は、土地を管轄する法務局・地方法務局の不動産登記部門で、支局・出張所では 受け付けていない点に注意が必要です。
この制度が相続放棄と大きく異なるのは、不要な土地だけをピンポイントで 手放せるという点です。預金などプラスの財産はそのまま相続でき、 いらない土地・空き地だけを国に引き取ってもらえます。
建物がある土地はNG
申請前に解体して更地にする必要
崖地・境界不明はNG
管理に過分な費用がかかる土地は不承認
審査手数料と負担金が必要
1筆14,000円+10年分の管理費相当額
申請には審査手数料として土地1筆あたり14,000円(返還不可)がかかり、 承認された場合はさらに「負担金」の納付が必要です。空き家の建物が残っている 土地はそのままでは申請できず、事前に解体して更地にする必要がある点は、 築古戸建て投資家としても見落とせないポイントです。解体を含めたリフォーム・ 更地化の費用感については ボロ戸建てのリフォーム費用の考え方|どこまで直すのが正解か もあわせてご覧ください。
※国庫帰属が承認されない却下事由・不承認事由は他にも複数定められています。 該当性の判断は法務局・弁護士・司法書士など専門家にご確認ください。
国庫帰属制度の負担金の目安
負担金は、国有地としてその土地を10年間管理するのに必要な標準的な費用を 考慮して算定されます(出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」)。 宅地の場合、面積にかかわらず原則一律20万円とされていますが、 市街化区域・用途地域が指定されている宅地は、面積に応じた計算式が適用され、 負担金が高くなるケースがあります。
図解:宅地の負担金は「原則20万円」だが市街地では変わる
| 項目 | 目安・注意点 |
|---|---|
| 審査手数料 | 土地1筆あたり14,000円(却下・不承認でも返還されない) |
| 宅地(原則) | 面積にかかわらず一律20万円 |
| 市街化区域内の宅地 | 面積に応じた計算式で増額(200㎡で約79.3万円の試算例) |
| 納付期限 | 負担金の通知到達日の翌日から30日以内。過ぎると承認が失効 |
※負担金は土地の種目・面積・所在地域によって個別に算定されます。正確な金額は 法務局が公開する自動計算シートで試算するか、法務局に直接ご確認ください。
手放す前に、収益化という選択肢も検討を
ここまで、相続放棄と相続土地国庫帰属制度という「手放す」手段について 解説してきました。ただし、どちらも一定の費用や手続きの負担があり、 さらに「建物付きの空き家はそのまま申請できない」という制約もあります。
いらないと感じている実家でも、立地によっては賃貸に出すことで 家賃収入を生む資産に変えられる可能性があります。相続した実家は すでに土地・建物を保有している状態からスタートできるため、 新たに物件を購入する場合に比べて初期費用を抑えやすいという特徴もあります。 格安中古物件投資の基本的な考え方は 空き家問題を「資産」に変える。格安中古物件投資入門 で解説していますので、「手放す」以外の道も一度検討してみることをおすすめします。
もちろん、売却して現金化するという選択肢もあります。相続した空き家を 売却する場合は、要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例もあり、 詳しくは 相続空き家の3,000万円控除|売却時の要件と注意点 で解説しています。また、相続税の計算段階では 空き家の相続税を80%減額|小規模宅地等の特例と家なき子の条件 で紹介している評価減の特例が使える場合もあるため、相続放棄や国庫帰属制度を 検討する前に、一度これらの制度が使えないか確認しておくと安心です。
売るか、貸すか、それとも手放すか——判断に迷う場合や、相続人が複数いて 足並みが揃っていない場合は、結論を急がず税理士・司法書士・弁護士といった 専門家に相談しながら進めることをお勧めします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法務・税務上の助言ではありません。 実際の手続きにあたっては、必ず専門家にご確認ください。
まとめ
いらない実家の空き家は、相続放棄をすれば必ず安心というわけではありません。 放棄時に家屋を「現に占有」していた場合は保存義務が残る可能性があり、 また相続放棄は預金などプラスの財産まで手放すことになります。
ピンポイントで不要な土地だけを手放したい場合は、令和5年に始まった 「相続土地国庫帰属制度」も選択肢の一つです。ただし建物付きの土地は 対象外で、審査手数料と10年分の管理費相当額の負担金がかかります。 「手放す」前に、賃貸・売却による収益化の道も一度検討してみましょう。
格安中古物件投資の基本については 空き家問題を「資産」に変える。格安中古物件投資入門で、 放置した場合のリスクと売却・賃貸・専門家相談の3つの選択肢については 実家の空き家を相続したらどうする?放置のリスクと3つの選択肢で、 売却時の3,000万円控除については 相続空き家の3,000万円控除|売却時の要件と注意点で、 相続税評価額を下げる特例については 空き家の相続税を80%減額|小規模宅地等の特例と家なき子の条件で、 売るか持ち続けるかの出口戦略については 築古戸建ての出口戦略|売るか持ち続けるかの判断基準 でも詳しく解説していますので、あわせてお読みください。