親から賃貸中のアパートや貸家を相続した——。家賃が入ってくるのはありがたい一方で、 見落としがちなのが「税金の申告」です。
じつは賃貸不動産を相続すると、相続税だけでなく所得税の申告も 必要になり、しかも申告のタイミングが複数あります。 「知らなかった」「あとでやろうと思っていた」では済まされず、 申告漏れが後から見つかると加算税・延滞税という追徴課税を 招くおそれがあります。
この記事では、賃貸不動産を相続したときに必要になる2つの申告と、 申告漏れで追徴課税を受けるケース、そしてそれを防ぐための手続きを、 初心者にもわかるように整理します。相続した不動産の全体的な進め方は 実家の空き家を相続したらどうする?放置のリスクと3つの選択肢 もあわせてご覧ください。
目次
賃貸不動産の相続では「2種類の税金」がかかる
まず押さえておきたいのは、賃貸不動産を相続すると、 相続税(財産を引き継いだことへの税)と 所得税(家賃という収入への税)という 性質のちがう2つの税金が関わってくる、という点です。
現金や自宅を相続する場合は相続税だけを考えれば足りますが、 「家賃を生み続ける」賃貸不動産は、相続した後も毎年の家賃収入について 所得税の確定申告が必要になります。ここが、賃貸不動産の相続が 少し複雑になる理由です。
図解:賃貸不動産を相続すると発生する「3つの申告」
具体的には、①相続開始を知った日の翌日から4か月以内の「準確定申告」、 ②同10か月以内の「相続税の申告」、③翌年以降に毎年行う相続人自身の 「確定申告」の3つが登場します。順番に見ていきましょう。
申告①:被相続人の準確定申告(4か月以内)
最初にやってくるのが「準確定申告(じゅんかくていしんこく)」です。 これは、亡くなった方(被相続人)のその年1月1日から死亡日までの所得を、 相続人が代わりに申告・納税する手続きです。
国税庁によると、年の中途で亡くなった人の場合、相続人等が 相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に 申告と納税をしなければならないとされています (出典:国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)・2026年8月時点)。
賃貸不動産を持っていた親が亡くなった場合、生前に受け取っていた家賃も 不動産所得としてこの準確定申告に含める必要があります。通常の確定申告が 翌年の2〜3月なのに対し、準確定申告は「4か月以内」と期限が短いのが 最大の落とし穴です。葬儀や遺産分割の話し合いに追われているうちに 期限が過ぎてしまう、というケースが少なくありません。
※準確定申告が必要かどうか(被相続人の所得の状況)や具体的な計算は 個々のケースで異なります。詳しくは税理士や所轄の税務署にご確認ください。
申告②:相続後の家賃収入は自分の確定申告へ
準確定申告が「亡くなった親の分」だとすれば、次に来るのは 「相続した自分の分」です。相続によって賃貸不動産を引き継いだ後の家賃は、 相続人自身の不動産所得となり、翌年以降、毎年の確定申告で 申告する必要があります。
ここで見落としやすいのが、遺産分割が決まる前の家賃の扱いです。 国税庁の質疑応答事例では、遺産分割が確定していない相続財産は各共同相続人の 共有に属するものとされ、そこから生じる所得(家賃)は 各相続人にその相続分に応じて帰属するとされています (出典:国税庁 質疑応答事例(賃貸用不動産に係る所得の帰属)・2026年8月時点)。
つまり「まだ誰が相続するか決まっていないから申告しなくていい」わけではなく、 分割協議中でも法定相続分に応じて各相続人が家賃を申告する必要がある、 という点に注意が必要です。「代表者の口座に家賃が入っているから その人だけが申告すればいい」と思い込むと、他の相続人が申告漏れになりかねません。
なお、相続した賃貸物件の家賃収入は、必要経費(固定資産税・修繕費・ 減価償却費・管理費など)を差し引いて所得を計算します。 築古の賃貸物件では減価償却や修繕費の扱いが利益を大きく左右するため、 不動産所得の経費の考え方は ボロ戸建て投資の税金と経費|確定申告で認められる費用の考え方 と ボロ戸建ての減価償却をやさしく解説|耐用年数と節税の仕組み もあわせて確認しておくと安心です。
※相続で取得した減価償却資産は、被相続人の取得時期・取得価額を引き継ぐなど 特有のルールがあります。判断に迷う場合は税理士にご相談ください。
相続税でも申告漏れが起きやすい理由
所得税だけでなく、相続税そのものでも賃貸不動産は申告漏れが起きやすい 財産です。理由は、建物・土地の評価だけでなく、 家賃・敷金といった「付随するお金」まで 申告に含める必要があるからです。
たとえば、亡くなった時点でまだ受け取っていない家賃(未収家賃)や、 入居者から預かっている敷金・保証金の返還債務など、 賃貸ならではの項目が絡みます。こうした細かな項目を うっかり漏らすと、後の税務調査で指摘され追徴につながることがあります。
一方で、賃貸不動産は評価上有利に働く特例もあります。 要件を満たせば相続税評価額を下げられる小規模宅地等の特例などは 空き家の相続税を80%減額|小規模宅地等の特例と家なき子の条件 で解説しています。「漏らさず申告する」ことと「使える特例は使う」ことは どちらも大切です。
※未収家賃・敷金・特例の適用可否は個別事情で判断が分かれます。 相続税の申告は税理士に相談しながら進めることをおすすめします。
申告漏れ・無申告のペナルティ(加算税・延滞税)
では、申告を忘れたり漏らしたりすると、実際にどのくらいの 「追徴課税」を受けるのでしょうか。ここが本記事のいちばん大事な部分です。 申告漏れには、本来の税金に加えて加算税と 延滞税が上乗せされます。
過少申告加算税
申告額が少なすぎたとき
無申告加算税
そもそも申告しなかったとき
延滞税
納付が遅れた日数に応じて
過少申告加算税(申告した税額が少なすぎた場合)は、税務調査の通知を受ける前に 自主的に修正申告すれば5%で済みますが、 調査の通知後は原則10%(追加分のうち当初の申告税額と50万円の いずれか多い額を超える部分は15%)に上がります (出典:国税庁 No.2026 確定申告を間違えたとき・2026年8月時点)。
そもそも申告していなかった場合の無申告加算税はさらに重く、 税務調査前の自主的な期限後申告なら5%ですが、 調査を受けてからでは、令和5年分以降は 50万円までの部分が15%・50万円超300万円までが20%・300万円超が30% と、金額が大きいほど税率が上がる仕組みです (出典:国税庁 No.2024 確定申告を忘れたとき・2026年8月時点)。
さらに、財産を意図的に隠したり事実を偽ったり(隠ぺい・仮装)した悪質なケースでは、 加算税に代えて重加算税が課され、無申告の場合は 40%という非常に高い税率になります (出典:国税庁 相続税及び贈与税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)・2026年8月時点)。
| ペナルティの種類 | 主な税率の目安(2026年8月時点) |
|---|---|
| 過少申告加算税 | 調査通知前の自主修正5%/通知後は原則10%(超過部分15%) |
| 無申告加算税 | 調査前の自主申告5%/調査後は15%・20%・30%(金額が大きいほど高率) |
| 重加算税(悪質な場合) | 隠ぺい・仮装があると無申告で40%と高率 |
| 延滞税 | 法定納期限の翌日から納付日まで、日数に応じて別途加算 |
※加算税・延滞税の税率や適用要件は税制改正で見直されることがあり、 個別のケースで異なります。上記は概要であり、正確な取扱いは 国税庁の公表資料または税理士・税務署にご確認ください。
ポイントは、いずれのペナルティも「税務調査で指摘される前に、 自分から申告すれば軽くなる」という点です。 「気づいたら早めに動く」ことが、追徴課税を最小限に抑える最大のコツです。
追徴課税を防ぐためにやること
最後に、相続した賃貸不動産で追徴課税を招かないための行動を、 時系列で整理します。難しく考えず、まずは「期限を意識する」ことから始めましょう。
申告漏れを防ぐ基本ステップ
準確定申告
相続税申告
毎年の確定申告
- 相続開始後は、まず準確定申告(4か月以内)の要否を早めに確認する
- 賃貸物件の家賃・敷金・未収家賃など「付随するお金」を漏らさず洗い出す
- 遺産分割が決まる前でも、家賃は法定相続分に応じて各相続人が申告する
- 相続した年以降は、家賃収入を自分の確定申告に必ず反映する
- 漏れに気づいたら、税務調査を待たず自主的に修正・期限後申告する(税率が軽くなる)
- 判断に迷う項目は、早い段階で税理士に相談する
賃貸不動産の相続は「家賃が入る」というメリットの裏に、 申告の手間とリスクがセットになっています。とはいえ、 すでに家賃を生んでいる物件を引き継げるのは、ゼロから物件を探す人に比べて 大きなアドバンテージでもあります。相続した物件を「負動産」にせず 活かす考え方は、 空き家問題を「資産」に変える。格安中古物件投資入門 で基礎から解説しています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務上の助言では ありません。実際の申告にあたっては、必ず税理士・税務署にご確認ください。
まとめ
賃貸不動産を相続すると、被相続人の準確定申告(4か月以内)、 相続税の申告(10か月以内)、そして翌年以降の 相続人自身の確定申告という複数の申告が必要になります。
これらを漏らすと、加算税・延滞税という追徴課税が上乗せされ、 悪質な場合は重加算税で40%にもなります。逆に、 調査で指摘される前に自主的に申告すれば負担は大きく軽くなります。 「期限を意識し、早めに動き、迷ったら専門家に相談する」——これが鉄則です。
相続した実家や賃貸物件の進め方については、 実家の空き家を相続したらどうする?放置のリスクと3つの選択肢、 手放す選択肢は 空き家の相続放棄は危険?残る管理義務と手放す前の選択肢、 売却時の特例は 相続空き家の3,000万円控除|売却時の要件と注意点、 相続税評価を下げる特例は 空き家の相続税を80%減額|小規模宅地等の特例と家なき子の条件 でも詳しく解説していますので、あわせてお読みください。