人けのない古い戸建て。事故物件や忌み地を相続したときの相続税評価を考えるイメージ

「亡くなった人が室内で亡くなった実家」「近くに墓地や嫌悪施設がある土地」—— いわゆる事故物件(心理的瑕疵物件)や忌み地を相続すると、 「こんな売りにくい家に、普通の家と同じ相続税がかかるのはおかしいのでは?」 と感じる方は少なくありません。

実は、一定の条件を満たせば、相続税の計算のもとになる土地の評価額を 10%下げられる取り扱いがあります。使えるかどうかで 納税額が変わる場面もあるため、知らずに申告してしまうのは大きな損失です。

この記事では、国税庁が示す「利用価値が著しく低下している宅地」の評価減について、 対象になる宅地・下げられる割合・使えないケースまでを初心者向けに整理します。 相続した空き家全体の進め方は 実家の空き家を相続したらどうする?放置のリスクと3つの選択肢 もあわせてご覧ください。

結論:事故物件・忌み地は「10%評価減」が使える場合がある

このセクションの要点は1つです。取引価格に影響するほど利用価値が下がっている宅地は、 相続税評価額から10%を控除できる場合がある——これが結論です。

国税庁のタックスアンサー「No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価」では、 付近の宅地に比べて利用価値が著しく低下していると認められる宅地について、 利用価値が低下している部分の面積に対応する価額に10%を乗じた金額を控除 できるとされています (出典:国税庁「No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価」・2026年8月時点)。

この取り扱いの中には、騒音・日照阻害・臭気などと並んで「忌み」が 例示されています。事故物件や、墓地・嫌悪施設が近接していることによる 心理的な要因で取引価格が下がる土地も、条件を満たせばこの評価減の対象に なりうる、というのが実務上の考え方です。

※「忌み」に該当するかどうか、また評価減が使えるかどうかは個々の事情によって 判断が分かれます。実際の適用可否は必ず税理士など専門家にご確認ください。

対象になる宅地の5つの類型

このセクションの要点:No.4617は「著しく利用価値が下がる宅地」を具体的に例示しており、 事故物件はそのうち「忌み等」に位置づけられます。

国税庁が挙げているのは、次のような宅地です。付近の宅地と比べて明らかに 条件が悪く、その結果として取引金額に影響を受けている点が共通しています。

類型 具体例
高低差道路より著しく高い/低い位置にあり、付近の宅地と比べて高低差が大きい
地盤地盤に甚だしい凹凸がある
震動震動が甚だしい
環境騒音・日照阻害・臭気などにより取引金額に影響を受ける
忌み等忌み等の心理的要因で取引金額に影響を受ける(事故物件・嫌悪施設の近接など)

※出典:国税庁「No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価」(2026年8月時点)をもとに作成。

ポイントは、単に「古い」「田舎にある」というだけでは対象にならないことです。 付近の標準的な宅地と比べて、利用価値が著しく低いと客観的に認められ、 かつ取引価格にその影響が出ていることが前提になります。

何%下がる?10%評価減の計算方法

このセクションの要点:評価額全体ではなく「利用価値が下がっている部分の面積に対応する価額」に対して10%を控除します。

仕組みをイメージで示すと、次のようになります。あくまで考え方を示す 単純化した試算例で、実際の金額ではありません。

図解:10%評価減の考え方(単純化した試算イメージ)

1000万円 900万円 通常の評価額 10%控除後 (△100万円)
出典:国税庁No.4617の控除方法をもとに作成した単純化した試算イメージ(実際の金額ではありません)

注意したいのは、控除の対象が「宅地の評価額全体」ではなく、 利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額である点です。 土地の一部だけが影響を受けている場合は、その部分に対応する価額に10%を乗じます。

相続税は、こうして計算した各財産の評価額を合計し、基礎控除を差し引いた 残りに税率をかけて求めます。評価額が下がれば、そのぶん課税対象が小さくなる 可能性があります。土地の評価額を下げる特例には、このほかにも 空き家の相続税を80%減額|小規模宅地等の特例と家なき子の条件 で解説している小規模宅地等の特例などがあり、要件が合えば併せて検討する価値があります。

築古の戸建ての室内。相続した事故物件をどう評価し活用するか検討するイメージ

【注意】評価減が使えない・認められないケース

このセクションの要点:路線価などに事情が既に反映されている場合は、二重に控除できません。

No.4617には重要な但し書きがあります。路線価・固定資産税評価額・評価倍率が、 その利用価値の低下している状況を考慮してすでに付されている場合には、 さらに10%をしんしゃく(控除)することはできないという点です (出典:国税庁「No.4617」・2026年8月時点)。

たとえば、その一帯全体が同じ環境要因を抱えていて、路線価そのものが すでに低めに設定されている地域では、重ねて10%を引くことはできません。 「事故物件だから自動的に10%引ける」わけではない、という点は 誤解しやすいので特に注意が必要です。

路線価に反映済み
地域全体で低く付されていれば重ねて控除不可

影響が客観的に必要
「古い」「田舎」だけでは対象にならない

資料で説明できるか
状況を示す資料の準備と個別判断が要る

評価減が使えるかどうかは、路線価の設定状況や現地の事情を踏まえた 個別判断になります。安易に自己判断で控除して申告すると、 あとで否認されて追徴課税につながるおそれもあります。相続した 賃貸不動産の申告で気をつけたい点は 相続した賃貸不動産の申告漏れは危険|追徴課税を防ぐ確定申告 でも解説しています。

※本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務判断ではありません。適用可否は 税務署または税理士にご確認ください。

申告のポイントと専門家への相談

このセクションの要点:この評価減は自分から申告して初めて反映されます。使える可能性があるなら早めに相談を。

相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から 10か月以内が原則の期限です。10%評価減は自動的に 適用されるものではなく、納税者側が判断し、根拠を示して申告する 性質のものです。

そのため、事故物件や忌み地に心当たりがある場合は、次の順で動くのが 現実的です。

相続税そのものの納付が重い場合の対処は 相続空き家の3,000万円控除|売却時の要件と注意点 など、売却時の特例とあわせて全体設計を考えると選択肢が広がります。

投資家目線:相続した事故物件をどう活かすか

このセクションの要点:評価減で相続税を抑えつつ、事故物件は「安く取得できる収益源」として活かす道もあります。

築古戸建て投資の観点では、事故物件(心理的瑕疵物件)は 取得価格が抑えられる一方で、告知義務やリフォームなど押さえるべき論点が あります。買う側・活かす側の判断基準は 事故物件(心理的瑕疵物件)投資は買っていいのか で詳しく解説しています。

相続で受け取った実家が事故物件であっても、立地によっては 家賃を抑えて貸すことで収益を生む資産に変えられる可能性があります。 「相続税は評価減で抑え、活用で回収する」という発想は、 負動産を資産に変える一つの道筋です。格安中古物件投資の基本は 空き家問題を「資産」に変える。格安中古物件投資入門 で解説していますので、あわせてご覧ください。

まとめ

事故物件や忌み地を相続した場合、国税庁No.4617の「利用価値が著しく 低下している宅地」に当てはまれば、利用価値が下がっている部分に対応する 価額に10%を乗じた金額を相続税評価額から控除できる場合があります。

ただし、路線価などにすでに事情が反映されているときは重ねて控除できず、 「事故物件なら必ず10%引ける」わけではありません。適用可否は個別判断に なるため、心当たりがあれば相続税に強い税理士へ早めに相談するのが安全です。

相続した空き家全体の進め方は 実家の空き家を相続したらどうする?放置のリスクと3つの選択肢で、 土地の評価を下げる小規模宅地等の特例は 空き家の相続税を80%減額|小規模宅地等の特例と家なき子の条件で、 売却時の特例は 相続空き家の3,000万円控除|売却時の要件と注意点で、 事故物件を投資対象として見る視点は 事故物件(心理的瑕疵物件)投資は買っていいのか でも詳しく解説していますので、あわせてお読みください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務上の助言では ありません。実際の申告・手続きにあたっては、必ず税理士など専門家にご確認ください。