築古戸建てを2戸、3戸と増やしていくと、必ずぶつかるのが「このまま個人でいくか、法人化すべきか」という悩みです。 家賃収入が増えるほど税金も重くなり、「法人にしたほうが得らしい」という話をどこかで聞いた——そんな段階の方が多いはずです。
一方で、「法人化はいくらの所得から?」「戸建て何戸からが目安?」「設立にお金も手間もかかるのでは?」という疑問も尽きません。 ネットには『○○万円を超えたら法人化すべき』という断定も多いですが、数字の根拠を確認しないまま動くのは危険です。
この記事では、法人化の損得を分ける所得の目安を国税庁の所得税率で確認したうえで、 ①法人化とは何が変わるのか → ②いくらから得になるのか → ③戸建て何戸からが目安か → ④メリット → ⑤デメリットと落とし穴 → ⑥今やることの順に、 「で、自分はどうすればいいか」を中心に整理します。税率・金額は国税庁の所得税率表など公的な情報だけを根拠にします(2026年10月時点)。
目次
① 法人化とは|個人と法人で何が変わるのか
このセクションの要点は「個人は累進課税で所得が増えるほど税率が上がり、法人はおおむね一定の税率で課税される」という違いです。ここが法人化の損得のすべての出発点になります。
不動産投資の「法人化」とは、個人名義で持っていた物件や家賃収入を、自分で設立した会社(株式会社や合同会社)名義に移して運営することを指します。 大家としてのあなたと会社は別人格になり、家賃は会社の売上、税金は法人税として会社が払う形に変わります。
最大の違いは税率のかかり方です。個人の所得税は、所得が増えるほど税率も上がる累進課税。 これに対して法人税は、所得が大きくなっても税率が大きくは変わらない構造です。 そのため所得が小さいうちは個人が有利、大きくなると法人が有利という逆転が、どこかの金額で起こります。その分岐点を次章で確認します。
| 観点 | 個人(そのまま) | 法人化 |
|---|---|---|
| 税率 | 累進(所得が増えると上昇) | おおむね一定 |
| 設立・維持 | 費用も手間も小さい | 設立費用・毎年の手間が発生 |
| 赤字の年 | 税負担は小さい | 赤字でも一定の負担(均等割) |
| 向く規模 | 少額・数戸まで | 所得が大きい・拡大志向 |
※本記事は一般的な考え方を初心者向けに整理したものです。実際の有利・不利は所得の中身・他の収入・家族構成などで変わり、個別の判断は税理士にご相談ください(2026年10月時点)。
② いくらから得になる?所得の目安
このセクションの要点は「一般に、課税所得が900万円を超えるあたりが法人化を検討する目安とされる」ということです。まずは個人の所得税率を正確に押さえましょう。
国税庁の所得税の速算表では、課税される所得金額に応じて税率が次のように上がっていきます(令和8年4月1日現在。国税庁 No.2260 所得税の税率より)。
| 課税される所得金額 | 所得税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 695万円〜899万9千円 | 23% | 63万6千円 |
| 900万円〜1799万9千円 | 33% | 153万6千円 |
| 1800万円〜3999万9千円 | 40% | 279万6千円 |
注目すべきは900万円を境に税率が23%から33%へ一段上がる点です。 さらに所得税とは別に住民税もかかるため、所得が大きい人ほど「稼いだ分に対して手元に残る割合」が下がっていきます。 法人税は所得が増えても税率が大きく上がらないため、ここから先は法人のほうが税負担を抑えやすくなります。
こうした構造から、一般に課税所得900万円超(不動産所得だけなら330万円超が一つの目安とされることもあります)が、法人化を検討し始めるラインとして語られます。 ただしこれはあくまで一般的な目安で、給与など他の収入と合算した課税所得の大きさ、家族に役員報酬を分けられるか、設立・維持の費用を上回る節税額が出るかで、適切なタイミングは人によって変わります。
自分の所得がいまどのゾーンにあるかは、物件ごとの収支を正しく把握するところから始まります。 家賃から経費・税金を引いた手残りの考え方はボロ戸建ての利回り計算|表面と実質の違いと手残りの出し方で、経費にできる費目はボロ戸建て投資の税金と経費|確定申告で落とせるもの一覧で確認してください。
③ 戸建て何戸からが目安か
このセクションの要点は「戸数そのものより、法人化で生まれる節税額が設立・維持コストを上回るかで考える」ということです。
「戸建て何戸から法人化?」という質問はよくありますが、戸数は結果であって基準ではありません。 利回りの高い物件を数戸持てば課税所得900万円に届くこともあれば、利回りが低ければ戸数を増やしても届かないこともあります。見るべきは戸数ではなく所得です。
そのうえで現実的な感覚を補助線として言えば、築古戸建てを本業の給与に上乗せして数戸持ち、家賃収入がまとまってくると、課税所得が上の表の900万円ゾーンに近づいてきます。 このあたりで「法人化で減る税金」と「設立費用+毎年の手間とコスト」を一度天秤にかける、というのが順番です。
逆に、自己資金数百万円で1〜2戸を回し始めたばかりの段階では、個人のままのほうがシンプルで有利なことがほとんどです。 まずは1戸を堅実に運営して収支の型を作る——その基本は空き家投資の始め方|格安中古物件投資入門ガイドと少額から始めるボロ戸建て投資|自己資金いくらで何ができるにまとめています。
④ 法人化のメリット4つ
このセクションの要点は「法人化の効果は節税だけでなく、経費の幅・融資・資産承継にも及ぶ」ということです。所得が大きい人ほど、これらが効いてきます。
- ①税率が頭打ちになる:個人の累進税率が上がりきる前に、おおむね一定の法人税率に切り替えられます。所得が大きいほど差が出ます。
- ②役員報酬で所得を分散できる:家族を役員にして報酬を分ければ、一人に所得が集中するより税率を抑えやすくなります(勤務実態など要件には注意)。
- ③経費にできる範囲が広がりやすい:法人は事業として扱われるため、個人より経費計上の幅が広がる場面があります。何が経費になるかは必ず税理士と確認します。
- ④融資・拡大・承継に有利に働くことがある:規模拡大を目指すとき、法人のほうが金融機関と取引を続けやすい場面があります。将来、株式(持分)の形で引き継げるのも個人にはない利点です。
特に④は、戸数を増やしていく実践者にとって見逃せません。 融資をどう組み立てるかはボロ戸建て投資のローン|築古でも使える融資と通し方、年収からいくらまで借りられるかの逆算は不動産投資の融資は年収の何倍?借入可能額の逆算と考え方で解説しています。
⑤ 費用と落とし穴|デメリットも必ず知る
このセクションの要点は「法人化は『設立して終わり』ではなく、毎年コストと手間がかかり続ける」ということです。節税額がこれを上回らなければ、むしろ損になります。
荒井の方針は「いいことも悪いことも隠さない」。法人化の負の面を先に押さえておきましょう。
- ①設立に費用と手間がかかる:会社を作るには登記などの手続きと費用が必要です。合同会社のほうが株式会社より抑えられる傾向がありますが、いずれにせよ初期コストが発生します。
- ②赤字でも毎年かかる負担がある:法人は利益が出ていない年でも、地方税の均等割という一定額の負担が発生します。小規模なうちはこれが重く感じられます。
- ③事務・税務の手間が増える:法人は決算や申告が個人より複雑で、多くの場合は税理士への依頼が前提になります。その顧問料も毎年のコストです。
- ④個人から法人へ移すときにコストが出ることがある:すでに持っている物件を法人に移す際、登記費用や不動産取得税などがかかる場合があります。「今ある物件をそのまま移す」のは単純ではありません。
つまり法人化は、「浮く税金 > 設立費用+毎年の均等割・顧問料・移転コスト」が成り立って初めて得になります。 所得がまだ小さい段階で焦って法人を作ると、節税より固定コストが上回る——これが一番ありがちな失敗です。 ほかの典型的なつまずきはボロ戸建て投資の失敗例7選|買う前に知るべき落とし穴にまとめています。
⑥ 今やること|判断の順番
このセクションの要点は「戸数や噂で決めず、『所得 → 試算 → 税理士に相談』の順で判断する」ということです。
法人化は一度やると簡単には戻せません。次の順番で、落ち着いて見極めましょう。
法人化を判断する順番(戸数ではなく所得と試算で決める)
所得を把握
ゾーンに近いか
維持コスト比較
試算を相談
- ①いまの課税所得を正確に出す:給与など他の所得も合算した「課税所得」がいくらか。これが全ての出発点です。
- ②900万円ゾーンに近いかを見る:上の税率表で、自分が税率の上がる境目に近いかを確認します。まだ遠いなら個人のままで拡大に集中します。
- ③節税額と維持コストを並べる:法人化で浮く税金の見込みと、設立費用・均等割・顧問料・移転コストを一枚に並べます。
- ④税理士に試算を依頼する:最終判断は必ず税理士の試算で。設立のタイミングや会社形態(株式会社か合同会社か)もここで決めます。
そもそも拡大を前提にするなら、出口(売却・保有継続・承継)まで見据えて考えると判断がぶれません。 保有物件をどう増やし、いつ・どう手放すかはボロ戸建て投資の出口戦略|売る・貸し続ける・持ち切るの判断、建物の経費化(減価償却)の基本はボロ戸建ての減価償却|築古の耐用年数と節税の仕組みで確認してください。
⑦ 次に読むべき記事
法人化は「戸数で決める」のではなく、課税所得が900万円ゾーンに近づき、浮く税金が維持コストを上回るようになってから、税理士の試算で判断するのが王道です(2026年10月時点・税率の出典は本文中)。 まずは個人のままで収支と融資の型を固め、所得が育ってきたら法人化を検討する——この順番を外さないことが大切です。
- 空き家投資の始め方|格安中古物件投資入門ガイド(投資の全体像・ピラー)
- ボロ戸建ての利回り計算|表面と実質の違いと手残りの出し方(所得の把握)
- ボロ戸建て投資の税金と経費|確定申告で落とせるもの一覧(経費の基本)
- ボロ戸建ての減価償却|築古の耐用年数と節税の仕組み(建物の経費化)
- ボロ戸建て投資のローン|築古でも使える融資と通し方(融資の組み立て)
- 不動産投資の融資は年収の何倍?借入可能額の逆算と考え方(借入額の逆算)
- ボロ戸建て投資の出口戦略|売る・貸し続ける・持ち切るの判断(拡大と出口)
まとめ
戸建て投資の法人化は、個人の累進税率が上がる境目を超えてからが本番です。 国税庁の税率表では課税所得900万円を境に税率が23%→33%へ上がり、ここから先は法人のほうが税負担を抑えやすくなります(2026年10月時点・出典は本文中)。
ただし法人化には設立費用・赤字でもかかる均等割・顧問料・物件移転のコストがついて回ります。 「浮く税金 > これらの固定コスト」が成り立つかを、戸数や噂ではなく自分の課税所得と税理士の試算で見極めましょう。
「規模を増やしたいが、個人のままでいいのか不安」という方は、まず収支と融資の型づくりから。 ボロリッチでも、物件の拡大から税務・出口の相談まで、実践者の視点でサポートしています。