「相続した実家の庭木が伸び放題で、隣の家から枝が越境していると苦情が来た」。 あるいは逆に、「隣の空き家の木がうちの敷地に張り出してきて、落ち葉も日当たりも困っている」。
築古の戸建てや空き家を持つと、避けて通れないのが庭木の越境トラブルです。 そこで多くの人が最初に迷うのが「越境してきた枝を、自分で勝手に切っていいのか」という点です。
結論を先に言うと、答えは「原則ノー、ただし例外あり」。 2023年(令和5年)4月施行の民法233条の改正で、一定の条件なら越境された側が自分で切れるようになりました。 この記事では、越境された側・越境した側どちらの立場でも、で、自分はどうすればいいのかを、法務省の情報だけを根拠に整理します(2026年10月時点)。
目次
① まず結論|立場別の早見表
このセクションの要点は「越境してきた『枝』は原則として勝手に切れないが、『根』は自分で切れる。枝も、改正で一定条件なら自分で切れるようになった」ということです。
まずは自分がどちらの立場かで、やることが変わります。下の早見表で、近い行を確認してください。
| あなたの状況 | 勝手に切れる? | まずやること |
|---|---|---|
| 隣の木の「枝」が越境してきた | 原則ノー(例外あり) | 所有者に切除を求める |
| 隣の木の「根」が越境してきた | イエス | 自分で切り取れる |
| 自分の木が隣へ越境している | —(あなたが切る側) | 早めに剪定・謝意を伝える |
※上記は民法233条・209条等にもとづく一般的な整理です。個別の状況では管理会社・自治体・専門家への確認が必要です(2026年10月時点)。
ポイントは、「枝」と「根」で扱いが真逆だということ。 越境してきた枝は原則として勝手に切れませんが、越境してきた根は昔から自分で切り取ってよい、と民法で定められています。 そして2023年の改正で、枝についても自分で切れる例外が3つはっきりしました。次章から順に見ていきます。
② なぜ枝は勝手に切れないのか(枝と根の違い)
このセクションの要点は「木は『生えている土地の所有者のもの』。だから越境した枝も他人の財産であり、原則として無断で切れない」ということです。
越境してきた枝が邪魔でも、原則として勝手に切れないのは、その木が隣地の所有者の財産だからです。 うちの敷地にはみ出していても、木そのものは隣の人のもの。無断で切ると、思わぬトラブルや損害賠償の火種になりかねません。
そこで民法は、越境された側は木の所有者に対して「枝を切ってください」と求める(切除を請求する)のが原則、としてきました。 一方で、地中に伸びてくる「根」は、越境された側が自分で切り取ってよいと定めています(民法233条)。 同じ越境でも、目に見えて財産価値のある枝は慎重に、地中の根は自分で、という線引きです。
とはいえ、現実には「隣が空き家で所有者と連絡がつかない」「所有者はいるが何度言っても切ってくれない」というケースが後を絶ちませんでした。 これでは越境された側がいつまでも困ったまま。そこで改正されたのが、次に見る「3つの例外」です。
③ 自分で切れる「3つの例外」|民法改正の中身
このセクションの要点は「改正後は、①催告しても切らない②所有者が不明③急迫、のいずれかなら、越境された側が自分で枝を切り取れるということです。
法務省によると、2021年(令和3年)の民法改正で越境した枝の切除ルールが見直され、2023年(令和5年)4月1日から施行されました。 原則(所有者に切除を求める)は維持しつつ、次のいずれかにあてはまる場合は、越境された側が自分で枝を切り取れるようになっています(法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」・2026年10月時点)。
越境した枝を自分で切れる「3つの例外」(いずれか1つでOK)
切らない
分からない
事情がある
- ①催告しても切らないとき:木の所有者に「枝を切ってください」と求めたのに、相当の期間内に切らない場合。法務省の説明では、この「相当の期間」は基本的に2週間程度が目安とされています。
- ②所有者を知ることができない・所在が分からないとき:隣が空き家で持ち主が誰か分からない、連絡先が分からない、といった場合です。遠方の相続空き家が放置されているケースがこれにあたります。
- ③急迫の事情があるとき:台風で今にも枝が折れて落ちそう、などすぐに対処しないと危険な場合です。
なお、木が共有になっている場合(相続で複数人の名義など)は、各共有者がそれぞれ越境した枝を切り取れることも明確化されました。 いずれにしても、いきなり切るのではなく原則は「所有者に求める」、それでも動かないなら例外で自分で切るという順番が基本です。
④ 隣の木が越境してきたとき、やること
このセクションの要点は「いきなり切らず、『求める → 記録を残す → 期間を待つ → 切る』の順で進めると、後からもめない」ということです。
隣の庭木や空き家の枝が自分の敷地に張り出してきたら、感情的に切り落とす前に、次の順番で動くのが安全です。
- 1. まず所有者に切除をお願いする:口頭でも構いませんが、後々の証拠になるよう書面やメッセージで日付を残すと安心です。相手が応じればこれで解決します。
- 2. 応じない・連絡がつかない場合を記録する:いつ・どんな方法で求めたか、相当の期間(目安2週間)待ったか、所有者が分からないかをメモや写真で残します。これが「例外にあてはまる」証拠になります。
- 3. それでも解決しなければ自分で切る:3つの例外のいずれかにあてはまるなら、越境した枝を自分で切り取れます。越境している部分だけにとどめ、やり過ぎないのが無用な争いを避けるコツです。
相手が空き家で所有者が分からないときは、固定資産税の課税情報などから所有者を調べる窓口が自治体にある場合があります。 自分だけで抱え込まず、市区町村の空き家相談窓口に状況を伝えると、対応の糸口が見つかることがあります。 隣家との付き合い方や相談先に迷ったら、相続した実家は誰に相談?司法書士・税理士・不動産会社の使い分けも参考にしてください。
⑤ 自分の空き家の木が越境して苦情が来たとき
このセクションの要点は「越境させている側の管理責任は重い。苦情が来たら『すぐ対応する』のが、賠償や関係悪化を防ぐ最短ルート」ということです。
立場が逆——自分が相続した実家や空き家の庭木が、隣にはみ出して苦情が来たケースも増えています。 遠方で手が回らず放置しているうちに、枝が隣家の屋根や電線にかかっていた、ということは珍しくありません。
この場合、木の所有者はあなたです。前章のとおり、隣の人からきちんと求められて相当期間放置すれば、隣の人があなたの木を切れる立場になりますし、 万一その枝が原因で隣家の物や人に損害を与えれば、所有者として賠償責任を問われることもあります。
- 苦情が来たら、まず謝意を伝えてすぐ剪定の段取りをする:対応の早さが、その後の関係を大きく左右します。
- 遠方で自分で行けないなら、管理代行や造園業者に依頼する:年に1〜2回の剪定を定期的に頼むだけでも越境は防げます。
- 売る・貸す予定があるなら、庭の管理状態も査定・印象に響く:伸び放題の庭は買い手・借り手に敬遠されがちです。
遠方の空き家を「誰に・いくらで・何を頼むか」は遠方の空き家、管理はどうする?費用の目安と頼める先に整理しています。 放置が進んで行政に目をつけられる前の段階で手を打つことが大切です。
⑥ 放置の落とし穴|伸び放題が招く別のリスク
このセクションの要点は「庭木の越境は『近所トラブル』で終わらない。放置空き家は防犯・行政指導の面でも損をする」ということです。
庭木の越境を放置することの怖さは、隣家との関係だけではありません。手入れされていない家は『放置されている』と外から一目で分かり、別のリスクを呼び込みます。
- 防犯リスク:伸び放題の庭は「人が出入りしていない」サインになり、空き巣や不法投棄の標的になりやすくなります。遠方オーナーの防犯対策は空き家の防犯対策|遠方オーナーが狙われないためにやることで確認を。
- 行政指導のリスク:庭木の繁茂や管理不全が著しいと、自治体から改善を求められる対象になり得ます。放置が進むと固定資産税の優遇が外れる「管理不全空家」の話にもつながります。管理不全空き家で固定資産税はいつ・いくら上がる?をあわせて。
- 資産価値のリスク:庭が荒れた家は売却でも賃貸でも不利。逆にいえば、きちんと直して管理すれば、負担だった実家が家賃を生む資産に変わります。
つまり、庭木の剪定は「ご近所への気づかい」であると同時に、空き家という資産を守るメンテナンスの一部でもあります。 相続した実家を売る・貸す・持ち続けるの全体像は相続した実家は売る・貸す・持つ?判断の順番と損得で整理しています。
⑦ 費用とよくある誤解
このセクションの要点は「自分で切れる場合でも、費用負担や『どこまで切れるか』には誤解が多い。やり過ぎず、記録を残すのが鉄則」ということです。
最後に、実務でつまずきやすい誤解を整理しておきます。
- 誤解1「越境された側が切れば、費用も自分持ち?」:例外にあてはまって自分で切った場合の切除費用は、原則として木の所有者に請求できると考えられています。領収書は残しておきましょう。
- 誤解2「越境分だけでなく、ついでに全部切っていい?」:切れるのは自分の敷地にはみ出している部分までが基本です。必要以上に切ると、逆に損害賠償を求められるおそれがあります。
- 誤解3「根も枝も同じ扱いでしょ?」:前述のとおり根は昔から自分で切れる、枝は原則ノー(例外3つ)と扱いが違います。混同しないよう注意してください。
- 誤解4「急迫なら何でもすぐ切れる?」:急迫の事情は「今にも落ちそう」など客観的に危険な場合に限られます。判断に迷うなら写真で状況を記録してから対応すると安全です。
どの例外で切るにしても、共通するのは「求めた事実・待った期間・切った範囲を記録に残す」こと。 これが、後から「勝手に切った」と言われないための一番の備えになります。
⑧ 次に読むべき記事
越境した枝は原則として所有者に切除を求める、例外(催告・所有者不明・急迫)なら自分で切れる——これが民法233条改正後のルールです(法務省・2026年10月時点)。 越境された側も、させている側も、放置せず早めに動くことが、トラブルと資産価値の低下を防ぎます。
- 遠方の空き家、管理はどうする?費用の目安と頼める先(放置を防ぐ管理の頼み方)
- 空き家の防犯対策|遠方オーナーが狙われないためにやること(荒れた家が招く防犯リスク)
- 管理不全空き家で固定資産税はいつ・いくら上がる?(放置が進んだ先の税負担)
- 相続した実家は誰に相談?司法書士・税理士・不動産会社の使い分け(相談先の選び方)
- 相続した実家は売る・貸す・持つ?判断の順番と損得(出口の全体像)
- 空き家投資の始め方|格安中古物件投資入門ガイド(資産に変える全体像・ピラー)
まとめ
相続した実家や空き家の庭木が越境したら、まず押さえるべきは「枝は原則ノー・根は自分でOK」という線引きです。 そのうえで枝は、①催告しても切らない②所有者が不明③急迫のいずれかなら、越境された側が自分で切り取れます(民法233条改正・2023年4月施行、法務省・2026年10月時点)。
越境された側は「求める→記録→待つ→切る」の順で、させている側は「苦情が来たらすぐ剪定」が鉄則です。 どちらも放置が一番損。近所トラブルだけでなく、防犯・行政指導・資産価値まで響きます。
「遠方の実家の庭まで手が回らない」「どうせなら直して貸せる資産にしたい」とお考えなら、物件の状態診断から管理・活用までボロリッチが一緒に考えます。 負担だった実家を、毎月家賃を生む資産に変える出口を一緒に設計しましょう。